2011年1月6日木曜日

血中アディポネクチンの濃度と2型糖尿病発症率の関連


  • 研究の背景と目的

従来、単なる脂(あぶら)の貯蔵庫と考えられていた脂肪組織から、私たちの体の働きを調節する役割をもつ様々な物質が分泌されていることがわかってきました。代表格がアディポネクチンで、その血中濃度は、肥満者では低値を示し、減量すると増えることが報告されています。

アディポネクチンは、ブドウ糖の筋細胞内への取り込みを助けて血糖値を下げたり、肝臓での脂質代謝に影響して脂肪肝を防いだりしているとされており、実際にアディポネクチン濃度が低いと2型糖尿病になりやすいことが、主として欧米人を対象に実施された研究において、報告されてきています。

しかし、日本人などの東アジア人は欧米人と比べアディポネクチン濃度が低く、また軽度の肥満があるだけでも、糖尿病の発症率が高くなることがわかっており、アディポネクチン濃度と糖尿病の関連が欧米の研究報告と同じように認められるかどうか、はっきりと分かっていませんでした。

そこで今回、研究開始時点で測定したアディポネクチン濃度とその後6年間の糖尿病発症リスクとの関連を調べ、糖尿病と代謝に関する国際誌に発表しましたので(李ら、Diabetes Metabolism Research and Reviews, 2012)、その概要をご紹介いたします。



  • 研究でわかったことの要点

・アディポネクチンの血中濃度が低いほど糖尿病を発症しやすい
・アディポネクチンの血中濃度がとても高くても、発症率が高くなる傾向
    糖尿病の素因を持つ人で防御的にアディポネクチンが上昇していた可能性あり




  • 研究の方法

解析の対象者は、平成14年の調査にご協力いただいた方々の中で、生活習慣の申告とアディポネクチンの測定結果があり、平成14年の時点では糖尿病に罹患してない3,008名(男性:2,328名、女性:680名)としました。対象者をアディポネクチンの値で、5つのグループに分け、グループごとの糖尿病の発症率を計算し、比較しました。



  • 糖尿病発症の定義

糖尿病は、平成16年、19年の病歴に関するアンケートで内服薬かインスリンによる治療をしていると回答した場合、または平成15年以降の健診で血糖値が126 mg/dl以上になった場合に発症したと定義しました。


  • アディポネクチンと肥満度や生活習慣との関連

アディポネクチンの値が低い群ほど、肥満度が高く、喫煙者の割合や飲酒量も多いこと、さらに、インスリン抵抗性も強いことがわかりました。一方、糖尿病の家族歴のある者の割合はアディポネクチンの値が中間くらいで最も低く、両端で高くなるというU字型を示しました。運動習慣とアディポネクチンの間には明確な関連性は認められませんでした。

次に統計学的な手法を用いて、アディポネクチン値で分けた各グループの肥満度や喫煙習慣などの背景が全て同じと仮定して、アディポネクチンと糖尿病発症との関連を調べました。



  • アディポネクチンの値と糖尿病発症との関係

平成14年から6年の間に、164 人(男性:135人、女性:29人)の方が糖尿病を発症しました。
図1に示したように、アディポネクチンの最も低い群が糖尿病に一番なりやすく、アディポネクチンの濃度が高くなるにつれて糖尿病発症率が徐々に低下する傾向が認められました。
しかし、アディポネクチンの値が最も高い群(グループ5)では逆転し、最も低い群並みのリスクを示しました。




  • アディポネクチンの値が低いことは糖尿病の危険因子

過去の研究報告と同様、アディポネクチンの値が低いことは、糖尿病の危険因子であることがわかりました。肥満度が高いこと、喫煙することなどはアディポネクチンの値が低いことと関連がありましたので、減量したり、禁煙することによってアディポネクチンの値が高くなり、ひいては糖尿病発症予防に繋がることが予想されます。
しかし今回の解析は、体重や喫煙の状況などが同じと仮定してもアディポネクチンの値が低いと糖尿病発症率が高くなることを示しており、アディポネクチン自体に糖尿病予防作用があったと考えられそうです。



  • アディポネクチンが最も高い群で糖尿病発症率が逆に高くなるような傾向について

この結果はどのように考えたらいいのでしょうか。初めに、偶然の結果である可能性は否定できません。別の研究でも同じような結果が観察されるか注視していく必要があります。次に、このような傾向が本当に存在したとしても、アディポネクチンが高すぎると悪さをするようになると考えるよりは、糖尿病になりやすい素因が何かあって、そのために防御的に高くなっていたと推測した方がよさそうです。しかし、こうした推測が正しいかどうか、さらに研究を進めて確かめる必要があると言えます。



  • まとめ

今回の検討から、日本人においてもアディポネクチンの低値は糖尿病の危険因子であることが分かりました。
減量、禁煙はアディポネクチンの値を上昇させると報告されています。したがって、これら生活習慣の改善はアディポネクチンを増加させ、糖尿病の予防に有効であると考えられます。
一方、これらの要因の違いだけでは説明できないような「アディポネクチン」の個人差も糖尿病の発症に関係していることがわかりました。
したがって、アディポネクチンの値を規定する要因を引き続き探索していくことが重要であると言えます。またアディポネクチンの値が高くても糖尿病を発症しやすい人がいることもわかりました。これらの人の特徴、例えばすい臓でのインスリン分泌能力などについてさらに研究していくことが必要と考えられました。

(一口メモ)アディポネクチンの測定は医療保険で認められていませんので、診療現場で検査されることはありません。ただし、アディポネクチン測定を含む人間ドックはあるようです。



[書誌情報]
Li Y, Yatsuya H, Iso H, Toyoshima H, Tamakoshi K. Inverse relationship of serum adiponectin concentration with type 2 diabetes mellitus incidence in middle-aged Japanese workers: 6-year follow-up. Diabetes Metab Res Rev. 2012 Jan 6. doi: 10.1002/dmrr.2277. .



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