2011年1月6日木曜日

健診成績と心臓病・脳卒中の関連性

この解析は愛知県の二職域のデータに基づいたものです。

研究を開始してから、平成12年8月までに19名の方が心臓病(心筋梗塞または突然死)で倒れられ(うち5名が死亡)、8名の方が脳卒中に罹られました(1名は死亡)。研究開始時点での発病者の特徴を知るため、この間発病せずそれ以前にも発病しなかった方を比較の対照として、健診成績と食習慣を比較しました。対照者は発病者と同じ職場、同じ年齢で、喫煙習慣、飲酒頻度、飲酒量が同じである人の中から、発病者1人につき3人を無作為に選びました。

 その比較成績を示した図1を見ますと、心臓病発病者は対照者に比べて、善玉コレステロール(HDLC)が40mg/dl未満の低HDLC血症、中性脂肪(TG)が150mg/dl以上の高TG血症、及び危険因子集積者の割合が統計的に見て明らかに高率でした。

危険因子集積とは、高血圧(収縮期血圧が140mmHg以上又は拡張期血圧が90mmHg以上)、低HDLC血症、高TG血症、耐糖能異常(血糖値が110mg/dl以上;IGTと表記)の4種の異常のうち2つ以上該当することを指します。なお、この基準は現在我が国で一般的に用いられているメタボリックシンドロームと同じ概念ですが、基準が若干異なります。
発病者と対照者で健診成績異常を保有する割合がどの程度異なるかをオッズ比という指標、即ち、要因のある人はない人に比べて何倍発病しやすいかという指標に直しました。その結果、低HDLC血症は4.8倍、高TG血症は7.3倍、危険因子集積は17.8倍という結果でした。

  • 肥満:Body mass Index=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)が25kg/m2以上
  • 高血圧:収縮期血圧が140mmHg以上又は拡張期血圧が90mmHg以上
  • 高TC血症:TC(総コレステロール)値が220mg/dl以上
  • 低HDLC血症:HDLC(善玉コレステロール)値が40mg/dl未満
  • 高TG血症:TG(中性脂肪)値が150mg/dl以上
  • IGT:耐糖能異常(血糖値が110mg/dl以上)
  • 高UA血症:UA(尿酸)値が7.0mg/dl以上
  • 危険因子集積:高血圧、低HDLC血症、高TG血症、耐糖能異常の4種の異常のうち2つ以上該当すること

脳卒中の発病者数は心臓病に比べて少なかったため、統計的に確かな差は得られませんでしたが、肥満、高血圧、危険因子集積などの割合が発病者で高い傾向がみてとれます(図2参照)。
ただし、血圧の平均値は発病者が対照者より明らかに高い値を示しました。

なお、心臓病に対しては危険因子集積の影響が特に強く出ていましたが、この集積には臓器がインスリンというホルモンの作用に鈍感になっている状態や脂肪の内臓への蓄積などが絡み合って関与していると考えられており、この状態をメタボリックシンドローム、あるいはインスリン抵抗性症候群、内臓肥満症候群、リスク多重症候群などと呼び、現在多くの研究者が注目しています(「メタボリックシンドロームの基礎」を参照)。
一人が持つ危険因子の数の増加に伴って心臓病発病の危険が著しく増えますので、ご自身の健診成績をそういう目で見直し、予防に結びつけることが大切です。

生活習慣との関連を見ますと、心臓病発病者は対照者群に比べて、朝食を毎日食べる者の割合が低く、食事を腹一杯食べる者の割合が高いという結果でした。
脳卒中発病者でも朝食を毎日食べる者の割合が低率でした。

これらの結果からは、規則的な生活習慣の形成がこれら疾患の発病予防につながる可能性が示唆されます。
不規則な生活習慣の方には、1年間規則的な生活に切り替え、健診結果がどのように変わったかを確認されることをお薦めします。(豊嶋英明 )


[書誌情報]
豊嶋英明「職域集団で探るメタボリックシンドローム対策」『日本循環器病予防学会誌』 2007; 42(1): 1-9.
八谷寛, 玉腰浩司, 豊嶋英明「肥満の健康影響」『現代医学』 2005; 52(3): 521-6.

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