2011年1月6日木曜日

将来「メタボリックシンドローム」になるリスクを計算してみましょう

はじめに
「メタボ」の予防に役立つ可能性のある生活習慣を明らかにしましたので、今回ご紹介いたします。

今回の検討では、はじめに、3年間の健診成績の変化から、メタボリックシンドロームに新しくなった方を診断し、その方々に特徴的な(悪い)生活習慣の組み合わせを明らかにしました。そして、その結果から、いくつかの基本的な生活習慣の組み合わせによって、メタボリックシンドローム発症確率を簡単に推定することができるチャートを開発しました(Li 他、予防医学誌 2010年51巻2号118-122頁)。

このチャートを用いれば、あなた自身の3年後の「メタボ」発症リスクを計算することや、生活習慣を改善することによって発症をどの程度予防できるのかを推測することが可能です。


研究の方法
平成14年に実施した「生活習慣に関するアンケート調査」にご協力くださった方は男性4,317名、女性1,140名でした。
そのうち、調査後3年間にメタボリックシンドロームになった女性職員は9名だったため、今回の検討は、男性のみを対象として実施いたしました。また、この研究は、調査開始時の生活習慣がその後のメタボリックシンドローム発症にどのように関係するかについて検討するためのものであり、研究開始時に心臓病や脳卒中、がんなど生活習慣を大きく変えるような病気にかかっていた(かかったことがあった)方、また高血圧、脂質異常症、糖尿病の治療をしていらっしゃった方は分析から除外しました。さらに、調査開始時に既にメタボリックシンドロームであった方も除き、1,897名を最終的な解析対象者といたしました。


メタボリックシンドロームの診断
平成17年の健診で以下の各基準のうち、3種類以上該当された方を、メタボリックシンドロームにかかったと定義しました。なお、腹部肥満の判定基準である腹囲(ウェスト)については、平成17年にアンケートで調査した結果を用いています。

  • 腹部肥満・・・腹囲(ウェスト)が85cm以上
  • 脂質異常症・・・トリグリセライド(中性脂肪)が150mg/dl以上、HDLコレステロールが40mg/dl未満
  • 耐糖能異常・・・血糖値が100mg/dl以上
  • 血圧上昇・・・収縮期血圧が130mmHg以上または拡張期血圧が85mmHg以上
平成17年までの3年間に、285名(1,897名の15%)がメタボリックシンドロームになりました。


生活習慣との関連
研究開始時に調査した生活習慣により、3年間のメタボリックシンドローム発症者割合をグラフに示しました。運動習慣はアンケートの以下の二つの質問から、中等度(汗ばむ強さ)以上の運動を週に3日以上かつ週に合計90分以上実施している人と定義しました。

<運動の強さ>
1. 激しい運動 
2. 汗ばむような強さの運動 
 3. 軽い運動 
<運動の頻度> アンケートではアとイを尋ねました。
1週間の運動日数………  [   ](ア)日/週
1日あたりの運動時間…  [   ](イ)分/日
1週間の運動時間………  [   ](ア×イ)分/週
(1週間の合計時間はア×イの計算で求めました。)


また「健康的な食べ方」は、薄味を好む、ほとんど毎日朝食を摂取する、早食いをしない、満腹まで食べない、の4項目を以下の質問から判定しました。

「塩、しょうゆ、みそなどの味付け(塩味)は濃いほうを好みますか?」  1.薄い味が好き  2.濃い味が好き
「朝食を毎日食べていますか?」  1.ほぼ毎日食べる  2.毎日食べない
「食事は腹いっぱい食べますか?」 1.腹八分目に控える  2.腹いっぱい食べる
「食事を食べるスピードは?」    1.ふつう、または遅いほう  2.速いほう

グラフ1

生活習慣の組み合わせ
ところで、喫煙習慣の有無と、運動習慣の有無など、各々の生活習慣は互いに関連していることが予想されます。したがって、ある生活習慣とメタボの関連は、実際には、その生活習慣に関連する別の生活習慣とメタボの関連を間接的に見ているに過ぎない可能性もあります。
そこで、各々の生活習慣が本当にメタボリックシンドロームの発症に関連しているかどうかを他の生活習慣の影響を統計学的に考慮して調べました。

その結果、運動習慣がある人は、ない人に比べメタボリックシンドロームの発症リスクが0.42倍、健康的な食べ方に4つとも該当する人は3つ以下しか該当しない場合に比べ0.49倍、現在喫煙しない人は、それ以外の場合に比べ0.62倍、体重が安定していた人は、それ以外の人に比べ0.64倍しかないことがわかりました。


発症リスク予測チャート
この結果をもとに、生活習慣の組み合わせから、3年間のメタボリックシンドローム発症リスク(確率)を予測するチャートを開発しました。
なお、研究開始時の年齢と体重(肥満度)は、これら生活習慣とともに、将来メタボリックシンドロームになるかどうかを決める重要な要因ですので、このチャートには年齢と肥満度(Body mass index)も含めてあります。


合計点が出たら、下の表3から、メタボリックシンドローム発症リスク(確率)を求めることができます。

-例-

52歳Aさん、身長168cm、体重68kg(肥満度は24)。
運動はほとんどしない。朝食は毎日食べるが、早食い、満腹まで食べることが多く、味付けも濃いものが好き。





現在は、メタボリックシンドロームではないAさんですが、合計点は6点で、3年後に「メタボ」となる確率は30%です。



ウォーキングを平日の朝30分、始めることにしました。
汗ばむ程度の速さで歩くために、この時間内に2km以上歩くこととしました。
「でも、無理は禁物。」
張り切りすぎて体調を崩したことがある同僚から貴重なアドバイスももらいました。



まとめ
Aさんは「運動習慣あり」に変わりました。合計点も6点から10点です。メタボ発症リスクも10%と三分の一になりました。具体的な目標もでき、気力も十分です。朝早く起きるために、仕事を切り上げる時間も一定になってきて、疲れも軽減しました。運動習慣が定着したら、ゆっくり食べる事に取り組もうと思っています。
このチャートを使って、ご自分の現在そして近い未来の状況を客観的に眺め、今の生活習慣を見直すきっかけとなることを願っています。

ところで、このチャートは別の見方も可能です。調査時に0~7点(Aさんと同じ)だった人は、1,897人中525人(28%)でした。
メタボリックシンドロームになった285人中、152人(53%)はこの点数区分の人から出ています。
もしも0~7点の人が全て13点以上になったら、メタボリックシンドローム発症者が半減する計算になります。

生活習慣は、日々の地道な努力により改善します。心身ともに健やかな状態で、仕事、家庭そして社会で末永く活躍できるよう、気を付けたいものです。( 八谷寛、李媛英 )


[書誌情報]
Li Y, Yatsuya H, Iso H, Tamakoshi K, Toyoshima H.  Incidence of metabolic syndrome according to combinations of lifestyle factors among middle-aged Japanese male workers.   Prev Med.  2010; 51(2): 118-22.


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