2011年1月6日木曜日

喫煙は血中アディポネクチンを低下させる

今回は、喫煙習慣と血液中のアディポネクチンという物質の濃度との関連について紹介いたします。


アディポネクチンとは
従来、単なる脂(あぶら)の貯蔵庫として考えられていた脂肪組織から、私たちの体の働きを調節する役割をもつ様々な物質が分泌されていることがわかってきました。
これらは脂肪細胞(英語でアディポサイト)から分泌されるため、「アディポサイトカイン」と総称されます。アディポサイトカインの中には体に好ましく作用する「善玉」とそうでない働きをする「悪玉」がありますが、今回テーマとしてとりあげたアディポネクチンは「好ましく作用する善玉アディポサイトカイン」の代表格といえます。

アディポネクチンは他のホルモンなどと比較すると血中に豊富に存在し、その血中濃度は女性の方が男性より高いという特徴があります。さらに興味深いことに、アディポネクチンは脂肪細胞から分泌されるにも拘わらず、内臓脂肪が増えると逆にその働きが悪くなり、血中濃度は低下します。アディポネクチン濃度が低下した状態は糖尿病やメタボリックシンドロームとも深く関係していることがわかってきました。


データについて
2002(平成14)年に行った生活習慣に関するアンケートでは、喫煙習慣について調査しました。具体的には、現在の喫煙状況を「吸っている」、「禁煙した」、「吸ったことがない」から選択していただきました。そして喫煙者の方には1日のタバコの本数、禁煙した方には禁煙してからの年数をお尋ねしました。
今回の健康のすすめでは、喫煙状況だけでなく、タバコの本数や禁煙してからの年数と血液中のアディポネクチン濃度との関連を検討しました。解析の対象となった方の数は、男性2,800人と女性858人の計3,658人です。なお、男女でアディポネクチンの濃度が大きく異なるため、以下の解析は男女別に実施いたしました。

タバコを吸っている人はアディポネクチンが少ない
現在の喫煙習慣の違いによる血液中アディポネクチン濃度は、図1に示すように、男女ともに現在吸っている方が最も低く、禁煙した方、吸ったことがない方の順に高くなりました。
喫煙状況と関連があり、かつアディポネクチンの血中濃度にも影響する可能性がある年齢や肥満度(Body mass index:BMI)、飲酒、運動量などは統計学的な手法を用いて調整していますので、タバコを吸っていることはこれらの要因とは独立してアディポネクチン低下と関連すると考えられました。

図1 喫煙習慣別にみたアディポネクチン濃度

タバコの本数とアディポネクチン
次に、タバコを吸っている方を、一日に吸うタバコの本数が15本未満、15-24本、25本以上と分けて解析しました。図2に示しますように、男女ともに一日に吸う本数が多いほどアディポネクチン濃度は低下する傾向にありました。

図2 一日の喫煙本数別のアディポネクチン濃度


禁煙によりアディポネクチンは回復する
さらに、禁煙した方を禁煙してからの年数が5年未満、5-9年、10-19年、20年以上で4群に分類して解析を実施したところ、禁煙してからの年数が経過している方のアディポネクチン濃度は高くなっており、20年以上経過した方では「初めから吸わない方」とほぼ同等のアディポネクチン濃度でした。


アディポネクチンはタバコによる動脈硬化疾患発症メカニズムの一つ
「喫煙と心臓病・脳卒中の関連性」でご紹介したように、喫煙は呼吸器疾患や動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症など)のリスクを高めます。
また、喫煙は糖尿病発症のリスクとなることも報告されています(「喫煙と糖尿病」の項を参照)。
今回の結果から、そのメカニズムとして、喫煙により血中アディポネクチン濃度が低下することが関与している可能性が考えられました。

これらの疾患のリスクを上げない一つの具体的な指標はアディポネクチンを低下させないことと言えるでしょう。
そのためには「タバコを吸わないこと」です。

さらに、禁煙によってアディポネクチンの血中濃度が回復することから、タバコを吸っている方は禁煙の決意を新たにしていただければと願います。( 竹藤聖子 )


[書誌情報]
Takefuji S, Yatsuya H, Tamakoshi K, Otsuka R, Wada K, Matsushita K, Sugiura K, Hotta Y, Mitsuhashi H, Oiso Y, Toyoshima H.  Smoking status and adiponectin in healthy Japanese men and women.  Prev Med. 2007; 45(6): 471-5.

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