2011年1月6日木曜日

喫煙と糖尿病

「喫煙と心臓病・脳卒中の関連性」の項では、喫煙する者の心血管疾患(心筋梗塞、突然死など)発症リスクは今までに喫煙したことがない者や禁煙した者に比べ明らかに高いことを示しました。

今回は、口渇や多尿、またひどい場合には昏睡など特有の症状を呈するだけではなく、心臓病や脳卒中の強い危険因子となり、また長期の経過を経て網膜(目)や腎臓、神経を侵し、我が国における失明、腎不全(透析)の最も重要な原因にもなっている「糖尿病」をテーマにとり上げ、喫煙習慣との関連を調べました。

解析の対象者と喫煙習慣の分類方法


解析対象者は、平成14年の調査にご協力頂いた男性2,836人です。
アンケートに記載して頂いた現在の喫煙状況、「吸っている」、「禁煙した」、「吸ったことがない」から対象者を喫煙者(1,024名)、禁煙者(792名)、非喫煙者(1,020名)に分類しました。

結果1:喫煙習慣による糖尿病割合の違い


表1に喫煙習慣による平均年齢、body mass index(BMI)、食事によるエネルギー摂取量、身体活動、飲酒習慣の違いを示しました。

喫煙者は非喫煙者に比べ、年齢がやや高く、身体活動、飲酒習慣を有する者の割合が異なっていました。

そこで、これらの要因の影響を統計的な手法を用いて制御した上で、喫煙習慣による糖尿病者割合の違いを調べました。なお、糖尿病は薬物・インスリンによる治療中または血糖値が126mg/dl以上の場合と定義しました。

その結果、図1に示したように、喫煙者における糖尿病者割合は9.6%と非喫煙者(4.7%)、あるいは禁煙者(7.4%)に比べ明らかに高いことがわかりました。



結果2:喫煙本数による糖尿病割合の違い
次に、現在喫煙する者において、1日の喫煙本数と糖尿病の割合の関連について調べました。先の分析と同様、糖尿病に影響を与えるかもしれない、他の要因は統計的に調整した結果です。

その結果、1日の喫煙本数が増えるほど、糖尿病の割合が有意に増すことがわかりました。例えば、1日25本以上喫煙する者における糖尿病者割合(14.1%)は非喫煙者における割合(4.7%)の3倍にも相当します。

このように、喫煙の程度と糖尿病の割合が比例する量反応関係は、喫煙が糖尿病の原因である可能性を示唆する根拠の一つと言えます。


喫煙が糖尿病を引き起こす(かもしれない)理由
「喫煙は血中アディポネクチンを低下させる」の項では、動脈硬化やインスリン抵抗性を防ぐアディポネクチンという物質の濃度が、喫煙者では非喫煙者や禁煙者に比べ低く、その低下の程度が喫煙本数と比例していることを紹介しました。
今回の結果は、喫煙によってアディポネクチンなどの分泌状態が変化したことによるのかもしれません。

また、ここでは示しませんでしたが、喫煙者ではレプチンという物質の濃度も低いことが、この研究で明らかになりました。

レプチンやアディポネクチンは脂肪細胞から分泌される物質で、脂肪細胞の機能が低下した状態を反映している可能性が他の研究によって報告されています。
そして、脂肪細胞の機能の低下が糖尿病に繋がることも報告されており、喫煙によって、脂肪細胞の機能が低下することが糖尿病を引き起こすメカニズムなのかもしれません。


研究結果を解釈する上での注意
今回の検討では、喫煙習慣と糖尿病の有無を同時に調べています(このような研究を横断研究と呼びます)。
したがって、糖尿病だから喫煙する、糖尿病だから1日の喫煙本数が多くなるという、因果の逆転の可能性を完全には否定できません。

この問題を解決するためには、研究開始時には糖尿病がない人を長期間にわたって追跡し、喫煙習慣によって、その後の糖尿病の発症状況が異なるかどうか調べるコホート研究を実施する必要があります。
平成9年から実施しているこの研究も、まさにそのような研究であり、疾患の原因の確定、ひいては、より効果的、効率的な予防対策を確立するために極めて重要です。


まとめ
この研究結果は、糖尿病の予防・コントロールのために、禁煙や「喫煙しないこと」の意義を示唆するもので、健康管理における喫煙対策の重要性を改めて示すものと言えます。( 八谷寛、堀田洋 )

[書誌情報]
Hotta Y, Yatsuya H, Toyoshima H, Matsushita K, Mitsuhashi H, Takefuji S, Oiso Y, Tamakoshi K.  Low leptin but high insulin resistance of smokers in Japanese men.  Diabetes Res Clin Pract. 2008; 81(3): 358-64.

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