2023年3月8日水曜日

メタボリックシンドロームの予防のための食事パターン

 

愛知職域コホート研究対象者に2013年に実施したアンケート調査では172項目(38食品群)に及ぶ詳細な食事調査を実施いたしました。今回、縮小ランク回帰という新しい解析手法を用いて、メタボリックシンドロームの予防に繋がる食事パターンを同定しました。具体的には、食事によってメタボリックシンドロームが発症するメカニズム(例えば栄養素、あるいは腹囲や血糖値)をはじめに想定し、それらに関係する食事パターンを統計学的に同定しました。そして、その食事パターンと2013年から2018年にかけて5年間のメタボリックシンドローム発症との関連を分析し、専門誌に公表しましたので、ご紹介いたします(李ら、Nutrients誌 2022年14巻15号3019頁)。

データについて

解析に使用したデータは2013年の生活習慣等のアンケートにご回答頂き、かつ経年的な健康診断の成績の提供にご協力頂いた2013年時点で30-59歳の方4,193名のうち、解析に用いる変数に欠損がある方、2013年健診時に既にメタボリックシンドロームを有していた方、また食生活が変容している可能性がある循環器疾患の既往がある方を除外した2,944名 (男性2,103名、女性841人)のものです。

健康的な食事パターン

はじめに、過去の研究でメタボリックシンドロームの予防に効果があると報告されている食物繊維、 β-カロテン、 ビタミンC、 ビタミンE、 ビタミンK、 マグネシウム、n3脂肪酸、タンパク質・炭水化物比の8つの栄養素を選択し、それらの摂取に関連する「健康的な食事パターン」を縮小ランク回帰によって同定しました。

その結果、図1に示したように、これらの栄養素の摂取に関連する「健康的な食事パターン」は野菜、果物、豆類、魚介類、乳製品、漬物などを多めに食べ、ごはんと赤身の肉を食べない特徴があることがわかりました。


非健康的な食事パターン

また、縮小ランク回帰を用いて、メタボリックシンドロームの中心的な病態である腹囲と空腹時血糖の高値と関係する非健康的な食事パターンも同定しました。
その結果、図2に示したように、野菜、食パン、雑穀、果物などを食べず、漬物、ごはん、麺類、赤身の肉類、加工肉を多めに食べる特徴があるパターンが同定されました。

メタボリックシンドローム発症の定義

今回、メタボリックシンドロームの基準としては以下の海外の基準を用いました。すなわち、血圧高値、低HDLコレステロール、高中性脂肪、高血糖、腹部肥満の5項目のうちいずれか3項目以上を満たす場合としました。また各項目(特に低HDLコレステロール、高血糖、腹部肥満)の異常を判定する値も日本の基準ではなく海外の基準を用いています。具体的には以下の通りですが、日本の基準との共通点も多く、類似の指標と言えます。
  1. 血圧高値:収縮期血圧が130 mmHg以上または拡張期血圧が85 mmHg以上または降圧薬使用あり
  2. 低HDLコレステロール:男性では40 mg/dL未満、女性では50 mg/dL未満、男女とも脂質異常症治療薬の使用あり
  3. 高中性脂肪:150 mg/dL以上または脂質異常症治療薬の使用あり
  4. 高血糖:100 mg/dL以上または糖尿病治療薬の使用あり
  5. 腹部肥満:腹囲が男性で90 cm以上、女性では80 cm以上
そして、2018年までの健診でメタボリックシンドロームの基準を満たした場合を発症としました。ベースラインから2018年まで5年間の追跡期間中、374名(男性286; 女性 88)がメタボリックシンドロームを発症しました。

健康的な食事パターンと5年間のメタボリックシンドローム発症との関連

普段の食生活が健康的な食事パターンにどのくらい近いかをスコア化し、スコアの値によってQ1(最も健康的な食事パターンではない)、Q2、Q3、Q4(最も健康的な食事パターン)の4群に等分し、メタボリックシンドローム発症との関連を検討しました。その結果、5年間のメタボリックシンドロームの発症リスクはQ4、Q3では、それぞれ35%(0.65倍)、32%(0.68倍)も低下していました。健康的な食事パターンは、メタボリックシンドロームの構成要素のうち、血圧高値の予防、さらに高中性脂肪と低HDLコレステロールの予防と関連する傾向を認めましたが、高血糖と腹部肥満については関連を認めませんでした(図3-1)。なお、これらの解析では食事パターンのスコアの違いにより異なる可能性のある対象者の年齢、性別、総摂取エネルギー、喫煙状態、飲酒量、運動習慣、学歴、職業、5年以内の食習慣の変化、高血圧・脂質異常症・糖尿病の薬物治療状況等の変数を統計学的に調整して行いました。


図3-1: 健康的な食事パターン 図3-2: 非健康的な食事パターン



非健康的な食事パターンと5年間のメタボリックシンドロームの発症との関連

健康的な食事パターンはメタボリックシンドロームの発症リスクの低下に関係はしましたが、腹部肥満や高血糖と関連しなかったため、上述の通り、非健康的な食事パターンとして、メタボリックシンドロームの構成要素のうち、その病態としても重要と考えられるベースライン時の腹囲と空腹時血糖値に基づいて食事パターンを同定し、健康的な食事パターンと同様、R1(最も非健康的な食事パターンではない)、R2、R3、R4(最も非健康的な食事パターン)の4群に分類しました。
その結果、普段の食生活が非健康的な食事パターンに近いほど、メタボリックシンドローム及びすべて構成要素の発症と関連しました。すなわち、スコアが最も低いR1を基準として、最も非健康的な食事パターンであるR4のメタボリックシンドロームの発症リスクは約150%(約2.5倍)、低HDLコレステロール、腹部肥満の発症リスクが約100%(約2倍)、血圧高値、高中性脂肪、高血糖の発症リスクは約50%(1.5倍)上昇していました(図3-2)。

まとめ

循環器疾患や糖尿病の予防対策として一般に、全粒穀物、野菜、果物、豆類、ナッツ、ヨーグルト、魚介類、植物油などを積極的に摂取すること、赤身の肉、加工肉、精製された穀物、デンプンと砂糖などを控えることが有用であると報告されています。実際、多くの国の食事ガイドラインではこのような食事構成を推奨しています。本研究においても野菜、果物、豆類、魚介類、雑穀、海藻の摂取が多く、赤身の肉、加工肉、精製された穀物が少ない食事パターンがメタボリックシンドロームの予防と関連する健康的な食事パターンであることが明らかになりました。適度な身体活動を行いつつ、バランスのとれた食習慣も維持し、メタボリックシンドロームの予防に繋げ、健康寿命の延伸に繋げて頂けることを願っています。


文献情報

Li Y, Yatsuya H, Wang C, Uemura M, Matsunaga M, He Y, Khine M, Ota A.
Dietary Patterns Derived from Reduced Rank Regression Are Associated with the 5-Year Occurrence of Metabolic Syndrome: Aichi Workers' Cohort Study. 
Nutrients 2022;14(15):3019. doi: 10.3390/nu14153019.



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