2023年3月8日水曜日

健診時LDLコレステロール値とその後の心血管疾患発症の関連

健診時の LDL コレステロール濃度と将来の脳・心血管(冠動脈疾患および脳卒中)発症リスクとの関連を、その病型別に調べ、専門誌に報告しましたので、ご紹介いたします(Al-Shoaibi ら、Journal of Atherosclerosis and Thrombosis 誌、2022 年)。


ポイント

  • LDL コレステロール値が高いほど、脳・心血管疾患、特に心筋梗塞などの冠動脈疾患の発症リスクが直線的に高くなりました。
  • 冠動脈疾患の発症リスクは LDL コレステロールが 120mg/dl 未満の者に比し、140-159mg/dl で約 3 倍、160 mg/dl 以上では 4.5 倍以上高くなっていました。

背景

コレステロールは細胞の膜やホルモンなどの原料となる生体にとって必須の物質で、食事から摂取する他、大部分は肝臓で合成され、血液を介して末梢組織に運ばれ利用されます。血液中では、アポ蛋白と呼ばれる蛋白質と結合して存在し、結合するアポ蛋白の種類や比重によりいくつかの種類に分けられています。低比重リポ蛋白コレステロール(LDLコレステロール)は、肝臓から末梢組織にコレステロールを運搬するものですが、その濃度が高くなると、末梢組織で利用される量を上回り、血管に沈着して動脈硬化(粥状動脈硬化またはアテローム硬化→もっと詳しく[他サイト])を促進するため、悪玉コレステロールと呼ばれています。

研究方法

研究にご協力頂いている方のうち2002年、2005年、2008年のいずれかの健診を受診した、脳・心血管疾患の既往歴のない概ね35歳から60歳の8,966人(平均年齢は45.6歳)を対象としました。対象者の79%が男性で、平均LDLコレステロール濃度は124.6 mg/dlでした。
研究開始時のLDLコレステロール濃度を100 mg/dl未満、100-119 mg/dl、120-139 mg/dl、140-159 mg/dl、160 mg/dl以上の5つのグループに分け、追跡期間中の脳・心血管疾患率を求め、100-119 mg/dlの群を基準に各群がどのくらい発症しやすいか計算しました。

研究結果

LDLコレステロール濃度が高いほど、年齢が高く、Body mass index(肥満度)が高値で、末梢組織で余剰なコレステロールを肝臓まで運ぶため善玉コレステロールと呼ばれる高比重リポ蛋白コレステロール(HDLコレステロール)は逆に低値でした。またLDLコレステロール濃度が高い群ほど高血圧や糖尿病を有する割合も高いことが確認されました。これらの要因はいずれも心血管疾患の発症しやすさに関係します。約12年間の追跡期間中に発生した、122人の脳卒中、82人の冠動脈疾患(注1)と研究開始時のLDLコレステロール濃度との関連性を検討しましたが、研究開始時に認められたLDLコレステロール濃度の群間によるこれら交絡要因(注2)の違いによる影響を統計学的な方法により調整して検討しました。



LDLコレステロール濃度が100-119 mg/dlの群を基準とした場合、LDLコレステロール濃度が140-159 mg/dl、160 mg/dl以上では、可能性のある交絡要因の影響を調整しても、それぞれ3.05倍、4.56倍冠動脈疾患発症リスクが高いという結果でした。



一方、LDLコレステロール濃度が高いことは脳卒中の発症のしやすさとは関連せず、逆に脳内出血においてはLDLコレステロール濃度が高いほど発症リスクが低い傾向が認められました。


まとめに代えて

LDLコレステロール濃度が高い場合、冠動脈疾患のリスクが特に高くなる結果が確認されました。お手元の健診結果でLDLコレステロール濃度を確認頂き、高値の場合は生活習慣の改善や医師に相談のうえ、薬物治療を考慮されることをオススメします。一方、LDLコレステロール濃度が低いと脳内出血の発症リスクが高くなる傾向が認められました。コレステロール低値と脳内出血の関連は国内外の過去の研究において認められている知見と同一でした。この解釈として、コレステロールが低いことに関連する低栄養などの他の要因が脳内出血の発症のしやすさに関連しているのではないかと推察されています。実際に、コレステロールを薬剤によって低下させても脳内出血のリスクは高くならず、脳梗塞のリスクは低下することも証明されています。

注1.脳卒中と冠動脈疾患
脳卒中は脳の血管の病気の総称で、脳の血管がつまると脳梗塞と、脳の血管が破れ脳の内部に出血する脳内出血、脳を包んでいる膜の外に出血するくも膜下出血の3種類がある。脳は体の機能をつかさどっているため、発症すると脳の機能が突然障害され、脳卒中と一括して呼ばれる。
 心臓は全身に血液を送り出しているポンプの役割を担っているが、心臓自身に酸素や栄養を供給する血管はその形状から冠動脈と呼ばれている。この冠動脈がつまって、心臓の筋肉(心筋)の一部が壊死してしまう病気のこと。心臓の機能が低下すると同時に激烈な痛みが発生する。

注2.交絡について
例えば、コーヒー飲用と心筋梗塞の関連を調べたところ、コーヒーを飲用していた集団は、飲用していない集団よりも心筋梗塞の発生が多かったという関連が認められたとする。この時、コーヒーを飲用する集団と飲用しない集団はコーヒー飲用以外にも異なる特徴を有し、その一つとして、コーヒー飲用者は非飲用者に比べ、喫煙習慣を有するものが多かった。喫煙は心筋梗塞の危険因子であることから、コーヒー飲用と心筋梗塞の間にみられた関連性は、コーヒー飲用によるものではなく、コーヒー飲用者に多い喫煙習慣によって、あたかも存在するように見えたと考えられる。この喫煙習慣の例のように、要因(コーヒー飲用)、結果(心筋梗塞)の両者に関連し、要因と結果に関連性が存在するように見せたり、逆に関連を見えにくくしたりするものを交絡因子という。疫学研究においては、交絡因子の制御が極めて重要である。


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