2011年1月5日水曜日

低炎症状態と生活習慣病

今回は、全身の低炎症状態と肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症などの代謝異常との関連について紹介いたします。


全身の低炎症状態とは?
私たちの研究は、心筋梗塞などの心血管事故をいかに予防するかということをテーマにしています。予防するためには、心血管事故の発症リスクを事前に予測し、事故に繋がる危険因子を取り除く、あるいは軽減することが必要です。
近年、この予測因子として全身の低炎症状態が注目されています。炎症とは肺の炎症(肺炎)などとして使われるように、ある場所に感染等があり、それに反応して発熱したりする状態をさしますが、ここで示す低炎症状態はそのようなものではありません。
敢えて表現すれば、何も症状はないが、炎症の有無を診断するために使われている検査値が正常値を超えない範囲内で高い状態をいいます。

例えば、動脈硬化の存在がこの検査値の上昇の一因として考えられています。
この炎症の診断に用いる検査値によって心血管事故を予測することができるという報告が相次いでいますが、低炎症状態と心血管事故との間を繋ぐ病態に関しては未だ明らかになっていません。
そこで、私たちは、従来から心血管事故の危険因子といわれている肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病、高尿酸血症などの代謝異常と全身の低炎症状態との関連を検討しました。

低炎症状態と代謝異常の関係
私たちは、全身の低炎症状態の指標として血液中のC反応性蛋白(以下CRP)を用いました。
病院では、CRPが1.00mg/dlを超える場合に炎症が存在すると診断しますが、私たちの研究ではこのように明らかな炎症が存在する方は除いて、CRPが1.00mg/dl以下の3,692名の男性を研究対象としました。そして、CRPが0.11mg/dl以上を低炎症状態がありと定義し、肥満、高コレステロール血症、高中性脂肪血症、低HDL血症(善玉コレステロールが少ない)、高LDL血症(悪玉コレステロールが多い)、糖尿病、高インスリン血症、高尿酸血症、高血圧との関連を検討したところ、すべての代謝異常が低炎症状態と統計学的に有意に関連していました。
すなわち、代謝異常を持っている人たちは持っていない人たちに比べて低炎症状態を持つ人の割合が有意に高いことが認められました。

低炎症状態は代謝異常をたくさん持っている人たちほど多くみられた
さらに、私たちは対象者毎に上に示した9つの代謝異常の数を合計し、0個群、1個群、2個群、3個群、4個群、5個以上群の6群に対象を分類し、各群の中で低炎症状態を持つ人の割合を算出しました。
低炎症状態を持つ人の割合は、0個群を基準とすると、1個群は1.57倍、2個群は2.01倍、3個群は2.19倍、4個群は3.07倍、5個以上群は4.91倍と、代謝異常の数が増すほど有意に低炎症状態を持つ人の割合が増加する傾向がみられました。
図1. 低炎症状態と代謝異常の集積との関連


低炎症状態と代謝異常の集積との関連
これらの研究結果から、低炎症状態は個々の心血管事故危険因子と関連し、それらの集積の程度を包括的に反映する指標、病態として重要であることが分かりました。
しかしながら、日本においてCRPと心血管事故との関連性に関する知見は少なく、事故予防に利用するための診断基準の設定には至っていません。これは私たちの今後の重要な研究課題であると考えています。
また、本研究結果は、心血管事故の各危険因子が重なることの危険性を示しているとも解釈できます。(玉腰浩司)


[書誌情報]
Tamakoshi K, Yatsuya H, Kondo T, Hori Y, Ishikawa M, Zhang H, Murata C, Otsuka R, Zhu S, Toyoshima H.  The metabolic syndrome is associated with elevated circulating C-reactive protein in healthy reference range, a systemic low-grade inflammatory state.  Int J Obes Relat Metab Disord. 2003; .27(4): 443-9.

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