2011年1月6日木曜日

健康習慣と白血球数との関連

今回は「7つの健康習慣」と白血球数との関連について紹介します(Otsuka R, et al. Ind Health 2008;46(4):341-7.)。

白血球の働きと血液中の数について

白血球は血液の成分の一つで、体内に侵入した細菌や異物に対抗して体を守る働きをしています。
細菌などの「異物」が体に入ってくると、白血球の数が増加し、その異物を自らの中に取り込んで消化し無害化します。
そのため、細菌感染症など急性の病気にかかっているときは、血液中の白血球数が増加し、医療現場では値の変化が治療効果の指標として用いられます。このような急性炎症は、咽喉(のど)、鼻、気管支や肺、歯肉、膀胱など局在がはっきりしていることが特徴です。

一方、骨髄の造血機能低下などが存在すると、白血球数が減少することもあります。
放射線を扱う職場では、放射線による健康影響を防止する目的で放射線業務従事者健診(電離放射線健康診断)が義務付けられています。放射線は生殖細胞や骨髄細胞など絶えず増殖分裂を繰り返しているような組織に影響を与えやすいことがわかっているからです。

成人の白血球数の正常範囲は、1マイクロリットルあたり4,000から8,000(個)程度とされています。
上述の急性の感染症や骨髄機能の異常のような状況では、白血球数は異常値をとり、多くの場合、二次検査や医療の対象となります。


低炎症状態とは

しかし、正常範囲であっても白血球数にはかなりの個人差が存在しています。
そして、白血球数の高値が「全身の慢性低炎症状態」の存在によるものであると考えられるようになってきています。
上述した通り、炎症とは肺の炎症(肺炎)などとして使われるように、ある場所に感染等があり、それに反応して発熱したりする状態をさしますが、ここで示す低炎症状態はそのようなものではありません。
何も症状はないが、炎症の有無を診断するために使われている検査値(ここでは白血球)が正常値を超えない範囲内で高いという特徴しかありません。
したがって、体のどこの部位に炎症があるのかと言った局在もはっきりしません。

ところが、この「低炎症状態」が心臓や脳の病気の発症リスクを高めることが、今までの研究からわかってきています。
そこで今回は、正常範囲における低炎症状態の指標として白血球数の個人差を用い、生活習慣との関係について検討いたしました。
白血球数が高くないこと(低値)と関連する生活習慣、すなわち健康習慣が明らかになれば、生活習慣の変容を通した、全身の炎症状態の低下、ひいては心臓や脳の病気のリスクの低下に繋がるかもしれません。


7つの健康習慣とは

3章 第2回「健康習慣と健康度との関連」でもご紹介しましたが、カリフォルニア大学のブレスロー教授らは、様々な生活習慣の中でも特に「7つの健康習慣」が身体的な健康度と強く関連していることを明らかにしました。
そして、健康習慣の良いグループは悪いグループに比べて、その後の死亡率が低かったことを報告しました。

そこで今回、ブレスロー教授らの元々の研究で用いられた基準を一部改変した以下の表1に示した「7つの健康習慣」を用いて、皆様の健康習慣の保有状況を調べ、そして健康習慣と白血球数との関連を検討しました。
それぞれの生活習慣について「良い(健康習慣)」に該当した場合、1点を加算し、個人ごとに合計点を算出し、健康習慣点数としました。

表1.本研究における「7つの健康習慣」の定義

  • アルコール量23gは日本酒1合、またはビール500 ml缶1本に相当。
  • BMIはbody mass indexの略で体格指標などと呼ばれます。体重(kg)÷(身長)2で求められ、我が国では25kg/m2以上が肥満とされています。用語解説の該当ページにBMI早見表を掲載しています。ご参照ください。


生活習慣は平成14年の生活習慣アンケートの結果から判定しました。アンケートにお答え頂いた男性1,492名、女性316名の健康習慣点数を図1に示します。

なお、今回の分析は健診で白血球数が測定された方を対象にしています。その結果、男女とも、5点の割合が最も高く、女性で0点の人はいませんでした。あなたは何点でしたか?

図1.健康習慣点数(0-7点)

各生活習慣と白血球数


男女ともに、喫煙、肥満と白血球数との間に強い関連がありました。すなわち、「喫煙している」人は、「禁煙した、または喫煙したことがない」人に比べ白血球数が高く、BMIが「25kg/m2以上」の人は「25kg/m2未満」の人に比べ白血球数が高い結果でした。
飲酒習慣については、男性で「アルコール摂取23g/日未満」の人が、「アルコール摂取23g/日以上」の人より白血球数が高い、という結果が得られました。

白血球数は低い方がよりいいと捉えると、飲酒習慣に関しては、表1の「良い生活習慣」で定義したものと逆に、アルコール摂取23g/日未満の方が「悪い」という結果でした。
また、食生活に気をつけていない男性や、運動を心がけていない男性では白血球数が高いという結果が認められましたが、睡眠時間やストレス自覚の程度は白血球数との間に統計学的に有意な関連性はありませんでした。


健康習慣点数と白血球数

次に、健康習慣点数と白血球数との関連を検討しました。なお、年齢は健康習慣点数にも白血球数にも関連する可能性があるため、統計学的にその影響を考慮して調べました。その結果、図2に示したように、男女ともに健康習慣点数が高いほど、白血球数が低くなる傾向が認められました。

図2.健康習慣点数と白血球数

健康習慣が一つでも増えると白血球数は減少する


さらに、良い生活習慣が一つ増えると、白血球数がどの程度変化するのかを解析しました。健康習慣が一つ増えるごとに、男性では白血球数が1マイクロリットルあたり205個低下し、女性では白血球数が1マイクロリットルあたり118個低下することが予測されました。


まとめ


今回の研究は、生活習慣と白血球数を同時に測定していますので、生活習慣が原因となって白血球数に違いが生じることを証明できた訳ではありません。しかし普通、白血球数は自分では分かりませんので、白血球数が生活習慣に影響を与えたとは考えにくいでしょう。
したがって今回の結果は、健康習慣を一つでも増やすと白血球数が減少する可能性を示していると考えてよさそうです。中でも、喫煙、肥満は白血球数と強く関連しており、この2項目を改善することは白血球数の減少、つまり低炎症状態の改善に繋がる可能性が高いことが示唆されました。

喫煙は直接体内の炎症反応を引き起こすようです。したがって、禁煙が望ましいのですが、炎症状態という観点からは喫煙本数を減らすことも有用かもしれません。
例えば今回、男性喫煙者の中でも毎日20本以上吸う人は、20本未満の人に比べ、白血球数が高いという結果が認められています。

肥満は体の中で脂肪が過度に蓄積された状態を指します。脂肪組織からは、私達の体の働きを調節するアディポサイトカインと呼ばれる様々な物質が分泌されていることが近年分かってきました(2章 第2回「喫煙は血中アディポネクチンを低下させる」を参照)。
過剰になった脂肪組織からは、炎症反応を促進するアディポサイトカインの分泌量が過剰になり、逆に抑制する物質が少なくなることがわかっています。
肥満の解消は簡単ではありませんが、生活習慣病予防の観点からやはり心がけたいところです。


男性の飲酒習慣では、飲酒量の多いグループに比べ、良い生活習慣と捉えた「アルコール摂取23g/日未満」のグループで白血球数が高い結果でした。

この理由として第一に、適量飲酒には、実際に炎症を抑える働きがあるかもしれないことです。適量飲酒者では、循環器疾患リスクが低いことも国内外の疫学研究で報告されています。その意味で今回の健康習慣の定義には再考の余地があると言えます。
しかし、過度の飲酒は血圧や血糖値の上昇を介して循環器疾患リスクを上げることもわかっています。さらにアルコール依存症や肝疾患など種々の疾患リスクを高めることもわかっていますので、飲酒の健康に対する影響は複雑で、適量であっても飲酒を推奨するべきかどうかについては更なる研究が必要と言えます。

第二に、「アルコール摂取23g/日未満」のグループには、健康上の理由から飲酒を「やめた、控えている」人が含まれていた可能性が考えられます。用いたアンケートでは、飲まないと回答した人に、その理由を尋ねていませんので、これ以上の解析は困難ですが、健康状態に大きな問題のない人を解析の対象にしていますので、この可能性はそれほど大きくはないかもしれません。


先に述べたように、本研究は横断的な研究ですので因果関係は明らかにできず、結果の解釈には注意が必要ですが、健康習慣を多くもっている人ほど、白血球数が低いことが示されました。
さらに、健康習慣が一つ増えるごとに白血球数が減少する可能性も示されました。
全ての生活習慣を健康習慣へと変えることは至難の業です。自分にとって改善しやすい生活習慣から、無理のない範囲で1つずつ健康習慣へと変えていくことが健康への近道といえそうです。


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