2011年1月6日木曜日

食べる速さと肥満

肥満は糖尿病を始め、高血圧、脂質異常症、引いては心筋梗塞、がんなど様々な生活習慣病の原因になっており、今やの世界的な流行病の一つで、その有効な対策を世界中が模索しています。

今回は、食べる速さと肥満との関連についてのお話しをします。
「早食いは太る」など、食事のスピードが速いと太るという言い習わしを耳にしたことがあると思います。速く食べると満腹感を生ずる前に食べ過ぎてしまうからだと言われますが皆様はそれを信じますか?もし早食いが本当に肥満の原因であるとしたら、ゆっくりと食べる習慣を身につけることが、長い目で見た肥満対策の一つになると考えられます。

どんなデータを用いたか
2002年に自治体職員の方々からアンケートで答えて頂いた、食事の速さ、食物摂取頻度、その時点の体格と20歳時の体重を用いて、「早食いは肥満になりやすいか?」という問に答える検討をしましたのでその結果をお知らせします。全ての問にお答え頂いた中で、体重に影響する重い病気にかかったことがない男性3,737人と女性1,005人のデータを分析しました。「食事の速さ」は「かなり速い」、「やや速い」、「ふつう」、「やや遅い」、「かなり遅い」の中から選ばれた答えです。肥満の指標には体重(kg)を身長(m)の二乗で割った値、即ちBMI (Body Mass Index)を用いました。

速く食べる群ほど肥満度は大きく、20歳からの肥満度増加も著しい

図1

図1に食べる速さと現時点のBMIの値を示しました。

男女とも食べる速さが速くなるに伴い現時点のBMI、20歳時のBMIのいずれも大きくなっていました(表1)。
20歳から現在までのBMIの変化量をみると、これも食べる速さが速くなるにつれて大きくなっています。成人前に成長がほぼ止まる身長も男性では食べる速さの増加と共に大きくなっています。

摂取エネルギー量は男性では食事のスピードの速い群ほど大きくなっており、早食いは沢山食べるとの言い伝え(?)とも男では一致しています。
しかし、肥満は運動、タバコ、飲酒などによっても影響されるので、これらの生活習慣を持つ者の割合が食べる速さの各群の間で異なる場合、表1で見られた関連はこれらの生活習慣の群間差の影響が加わったものです。

そこで、食べる速さ以外の生活習慣による影響がどの群も同じであるような条件下で、食べる速さによって肥満度(BMI)がどの程度違うかという、速さ群別の影響力を多変量解析という統計手法を用いて求めました。その結果を図2に示します。
図2

これらは食べる速さが「かなり遅い」と答えた群でのBMIの増加分を基準とした場合、各速さ群でのBMIの増加分がどれくらいになるかを男女別に示したものです。
20歳から現在までのBMI変化量のいずれも、食べる速さが速くなるに従い大きくなる事が示されました。

なぜ、そうなのか
食事のスピードが速いほど、肥満が進むと言うことがデータから示された訳ですが、一体なぜでしょうか。
男性では食事のスピードが速いほど摂取エネルギーが多くなったと言う事実で説明可能のようです。なお、女性では人数が少ないためにこの傾向が捉えられなかったのかも知れません。

他にも理由が考えられます。ある研究グループが、50gのブドウ糖の入った液体(700ml)を5分間で飲んだ場合と、ゆっくりと時間をかけて3時間半で飲んだ場合の間で代謝がどのように異なるかという実験を行いました。
2つの群間で血中のブドウ糖の上がり方に違いはなかったのですが、インスリンというホルモンの感受性が一気に飲む群では低下することが示されました。速く食べることが習慣化するとこのインスリンの作用への効果の蓄積を介して肥満がもたらされることも考えられます。
このようなことから、肥満を防止するにはゆっくりと食べることが大切なようです。

子供時代に食べる速さは形成される?
今回の分析でもう一つ指摘できることがあります。それは、20歳時の体重や思春期後成長が止まる身長も食べる速さが速いと答えた群で大きかったことから、この群では既に子供時代から食べる速さが速かった可能性が指摘できます。即ち、若年期の食事習慣は中年期も変わらない(変わりにくい)ことが考えられるため、子供の時からの適切な食事習慣の獲得が大人になってからの健康維持には大切といえるようです。
ではどれくらいの速さが理想なのでしょうか?残念ながら今回の研究ではその問に答えることは出来ません。取り敢えずは、食物はよく噛み、一家団欒や仲間との交流の時間を持つなどゆっくりと食事をすることを心がけてください。(大塚礼)

表1

a:食べる速さのカテゴリー間で認められた各項目の差が統計学的に有意(意味がある)かどうかを一元配置分散分析という手法によって検定。
傾向性の検定は、食べる速くなるほど、注目している値がほぼ直線的に増えていくかどうかを統計学的に検定する方法。
記号の意味:
#:偶然そのような関係が認められる可能性が10%未満
*:5%未満、**:1%未満、***:0.1%未満
(%値が小さいほど、ここで認められた関係は単なる偶然によって生じたものではないであろうということを意味します。)
NS(not significantの略):統計学的に有意な差ではない


[書誌情報]
Otsuka R, Tamakoshi K, Yatsuya H, Murata C, Sekiya A, Wada K, Zhang HM, Matsushita K, Sugiura K, Takefuji S, OuYang P, Nagasawa N, Kondo T, Sasaki S, Toyoshima H.  Eating fast leads to obesity: findings based on self-administered questionnaires among middle-aged Japanese men and women.  J Epidemiol. 2006; 16(3): 117-24.

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