2011年1月5日水曜日

食習慣と5年後のメタボリックシンドロームの発症

今回はメタボリックシンドロームの予防に有効と考えられる食習慣を紹介いたします。

欧米人を対象としたこれまでの研究では、脂質の摂取量が多いことや、果物・野菜の摂取量が少ないことが、メタボリックシンドロームの発症リスクを高めると報告されてきました。
しかし日本人での検討はほとんどなく、今回、ご協力者の方々からのデータに基づき、どんな食習慣をもっている方が、メタボリックシンドロームになりやすい(なりにくい)かを検討しました(大塚 礼他.日本栄養食糧学会誌.2009;62:123-9.)。


研究対象者


平成9(1997)年と平成14(2002)年に実施した生活習慣アンケートにご協力頂き、また両年とも「健診成績および健診時余剰血清の利用」にご賛同頂いた方を分析の対象としました。
解析に必要な質問項目に欠損がなく、メタボリックシンドロームの判定に必要な検査結果が両年ともそろっていた方は、男性2,140名、女性447名でした。この2,140名の男性のうち、平成9年に既にメタボリックシンドロームであった282名を除外した1,858名を解析対象者としました。
女性のうち、5年後すなわち平成14年にメタボリックシンドロームと判定された方は、わずか16名(3.4%)であったため、今回は、男性に限定した解析を実施しました。


メタボリックシンドロームの判定基準と5年間の発症リスク

表1に示したように、肥満に加え、脂質代謝異常、血圧高値、空腹時高血糖の3項目のうち2項目以上に該当する人をメタボリックシンドロームと判定しました。

(表1:メタボリックシンドロームの判定基準)
平成9年にはメタボリックシンドロームでなかった1,858名中、5年後の平成14年には、126名(6.8%)がメタボリックシンドロームと判定されました。
ところで、リスクとは危険性とか危険率という意味ですが、ここでは「ある期間に疾病にかかった人々の人数」を「その期間中に追跡調査された人々の人数」で割った値と定義しています。


メタボリックシンドローム発症リスクとの関連を検討した食習慣

表2に示した食習慣と、5年間のメタボリックシンドローム発症リスクとの関連を検討しました。
なお、年齢、喫煙や飲酒の習慣、身体活動量など個人の食習慣にも、メタボリックシンドロームの発症にも関連する可能性がある要因の影響は、統計学的に考慮して調べました。

(表2:食習慣の内容と回答肢)

メタボリックシンドローム発症リスクに関連した食習慣

5年後のメタボリックシンドローム発症リスクに関連があった食習慣は、牛乳、塩の味付け、油っこい味の好み、満腹まで食べるかどうかの4項目でした。
ある食習慣の人が、基準となる食習慣に比べて何倍メタボリックシンドロームになりやすかったかをオッズ比という指標を用いて、図示しました。
(図1:牛乳の摂取頻度とメタボリックシンドローム発症リスク)
その結果、牛乳を「ほぼ毎日」摂取する人に比べ、「週1-2日」摂取する人では1.78倍、「週1日も飲まない」人では1.72倍、メタボリックシンドローム発症リスクが高いという結果でした(図1)。

(図2:塩・しょうゆ・みそなどの味付けの好みとメタボリックシンドローム発症リスク)
また、塩・しょうゆ・みそなどの味付けが「濃い味が好き」と答えた人に比べ、「濃い味が好きだが控える」と答えた人では0.60倍、発症リスクが低いという結果でした(図2)。

(図3:油っこい料理の好みとメタボリックシンドローム発症リスク)
さらに、「油っこいものが好き」と答えた人に比べ、「あっさりめなものが好き」と答えた人では0.52倍、「どちらともいえない」と答えた人では0.56倍、発症リスクが低いという結果でした(図3)。

(図4:「食事は腹いっぱい食べるか」とメタボリックシンドローム発症リスク)

食事を「腹いっぱい食べるほう」と答えた人に比べ、「腹八分目に控えるほう」と答えた人では0.48倍、「どちらともいえない」と答えた人では0.48倍、発症リスクが低いという結果でした(図4)。


まとめ

今回の研究から、牛乳の摂取頻度が高いこと、濃い味を控えること、あっさりしたものが好きなこと、食事を腹八分目に控えることが、それぞれそうでない場合に比べ5年間のメタボリックシンドローム発症リスクの低下につながる可能性が示されました。
今回は男性での検討結果ですが、女性は男性よりも「あっさりしたものが好き」と答えた人が多いなど、食習慣には男女差が認められますので、女性での検討ができなかった点は残念です。

また牛乳に関して、その主要な栄養素であるカルシウムが血圧や代謝に好影響を与えることがわかっています。
しかし、牛乳を毎日摂取する方が、他に何らかの健康的な生活習慣や全般的に良好な健康状態を有していて、そのことがメタボリックシンドローム発症に予防的に作用した可能性は完全には否定できません。さらに、今回は低脂肪かどうかなど牛乳に含まれる脂肪成分については検討できていないことも今後の検討課題かもしれません。

さて、メタボリックシンドロームを予防する食習慣の研究は、日本人ではまだまだ少なく、今後の研究が待たれるところですが、牛乳を毎日摂取することや、濃い味が好きでも控えること、食事を満腹まで食べずに腹八分目に控えることなど、食事の際のちょっとした配慮により、メタボリックシンドローム予防の効果が期待できそうです。

早速今日から、食事の際のちょっとした心がけを始めてみませんか。



[書誌情報]
参考書誌
大塚 礼, 玉腰 浩司, 下方 浩史, 豊嶋 英明, 八谷 寛「職域中高年男性におけるメタボリックシンドローム発症に関連する食習慣の検討」『日本栄養食糧学会誌』 2009;62:123-9



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