2011年1月5日水曜日

コーヒー摂取による生活習慣病予防効果のメカニズム -アディポサイトカインを介した影響-

はじめに

コーヒーを飲んでほっと一息、そんな光景をよく目にします。世界で最も多く消費される飲料の一つです。日本はアジアの中ではコーヒー摂取量の多い国であり、2010年の調査によると成人1人あたり平均約11杯のコーヒーを1週間に消費しています。このように身近な飲み物であるコーヒーの健康に与える影響の調査は重要であり、これまで比較的多くの研究が行われてきました。

 コーヒーは胃腸に刺激を与えるため消化器疾患の人では控えるように指導されていたり、カフェインによる心悸亢進が心臓病の人で良くないのではと疑われるなど健康に対する負の影響と言った側面が注目された時期もありました。しかし最近の健康な人を対象とした研究では、コーヒーを多く飲む人では、あまり飲まない人に比べ、例えば血液検査で中性脂肪の値が低く、善玉(HDL)コレステロールが高いことが報告されるなど、コーヒーの生活習慣病予防効果に注目が集まっています。また、1日に4杯以上のコーヒーを飲む人の糖尿病発症率はそれ以外の人より有意に少なかったことが、類似の研究結果を集めて再解析するメタアナリシスと言う研究によっても示されています。

では、コーヒーはどのように生活習慣病を予防するのでしょうか。そのメカニズムとして、コーヒーによる体重減少作用、体内での炎症反応抑制効果、抗酸化作用、肝機能改善効果、インスリンの分泌・作用改善効果、など様々なものが提唱されていますが、それぞれ反対意見もあり、まだ十分解明されていません。


アディポサイトカインとは

ところで、従来余剰なエネルギーを脂(あぶら)にして貯蔵するだけと考えられていた脂肪組織が、生活習慣病の病態に密接に関係しているとして注目されています。つまり、脂肪組織からは、私たちの体の働きを調節する役割をもつホルモンのような働きをする様々な物質(アディポサイトカイン)が分泌されていることが分かってきたためです(「喫煙は血中アディポネクチンを低下させる」参照)。現在までに、数多くのアディポサイトカインが発見されてきており、その働きから「善玉」と「悪玉」のアディポサイトカインに分類されるようになってきています。

その中でも、アディポネクチンは、最も重要な善玉アディポサイトカインの一つで、脂肪組織で合成されるのに、その血中濃度は脂肪組織の多い肥満者で逆に低値を示し、減量すると増えることが特徴です。「血中アディポネクチンの濃度と2型糖尿病発症率の関連」で、その値が低い人では、将来の糖尿病発症リスクが高くなることを紹介いたしました。また、血中の低アディポネクチンは脂質異常症や心筋梗塞の発症との関連も指摘されています。アディポネクチンがインスリン感受性を高めて血糖値の上昇を防いだり、脂肪肝を防いだりすることが関係すると考えられています。

 レプチンもよく研究されているアディポサイトカインです。脳の視床下部にある満腹中枢に作用して食欲を抑え、また、交感神経を活性化させてエネルギー消費を促すことで肥満を抑制する働きがあると考えられています。これらの効果から、アディポネクチンと同様「善玉」アディポサイトカインと考えられますが、肥満に伴って増加したレプチンは炎症を促進したり、血圧を上昇させたりと言う「悪玉」の側面があることが知られてきています。

 

今回の研究の目的

そこで今回、コーヒーによる生活習慣病予防効果が、アディポネクチンやレプチンを介したものかもしれないと考え、検討を行いました。具体的には下図1に示したように、コーヒーと生活習慣病に関係する健診結果の間の関連(図中Cと示されている)が、実際にはAやBのようにアディポサイトカインを経由した経路になっているかどうかを統計学的に検討しました。

 

図1.

 

 

研究の方法

解析の対象者は、平成14年のアンケート調査にご協力いただいた方の中で、解析に必要な生活習慣の申告とアディポネクチンの測定結果があり、過去に心筋梗塞、脳卒中、がんの既往がなく、高血圧、糖尿病、脂質異常症に対する内服治療も行っていない3,317名(男性:2,554名、女性:763名)としました。対象者を1日に飲むコーヒーの摂取量で、1杯未満、1杯、2-3杯、4杯以上の4つのグループに分けて解析を実施しました。

 

結果

表1に示したように、1日に飲むコーヒーの量が多いほど、平均年齢が低く、喫煙する人の割合や総エネルギー摂取量の平均値が高く、またコーヒーに砂糖を入れて飲む人の割合が低くなる傾向が認められました。


 


そこでコーヒー摂取量の違いによるこれらの要因の差を統計学的になくして、コーヒー摂取と健診結果やアディポサイトカインの本来の関係を調べました(表2)。

 その結果、アディポネクチンの血中濃度はコーヒー摂取量に伴い増加、レプチンは逆に減少しました。また、全身の炎症の指標である高感度CRP、中性脂肪、肝機能マーカー(AST、ALT、γ-GTP)はコーヒー摂取が増えるにつれ、それぞれ減少しました。

 

次に、コーヒーと健診結果との関連が、アディポサイトカインによってどれくらい説明できるのかを調べました。
コーヒー摂取の増加によって高感度CRPは減少する傾向にありましたが、その効果の19.7%はアディポネクチン、23.4%はレプチン(両者の合計43.1%)を介していることがわかりました(図2)。したがって、コーヒー摂取による炎症反応の抑制効果の約半分はコーヒーがアディポサイトカインに影響することを介していると考えられました。一方、それらを介さない効果がまだ56.9(=100-43.1)%存在していることもわかりました。




また、コーヒーによる中性脂肪減少効果の61.5%はアディポサイトカインを介しての影響と考えられました(表3)。肝機能マーカー(AST,ALT,γ-GTP)についても約19-33%はアディポサイトカインを介した影響と考えられます。

まとめ

コーヒー摂取はアディポネクチンを増加、またレプチンを減少させ、それらを介して中性脂肪と炎症反応の減少、肝機能マーカーの減少をもたらしている可能性を示しました。ただし、因果関係を証明するためにはさらなる研究が必要です。コーヒー摂取量を増やすことによって、健診結果が改善するかどうかも、今回の検討結果から結論することはでません。
 したがって、無理して飲む量を増やす必要はないと現時点では考えていますが、お仕事などでお忙しい中、コーヒーなどを飲みながらほっと一息つく時間をとることは、身体にも心にも良い効果が期待できるでしょう。 





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(5)コーヒー摂取による生活習慣病予防効果のメカニズム


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