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2011年1月6日木曜日

食べる速さと肥満

肥満は糖尿病を始め、高血圧、脂質異常症、引いては心筋梗塞、がんなど様々な生活習慣病の原因になっており、今やの世界的な流行病の一つで、その有効な対策を世界中が模索しています。

今回は、食べる速さと肥満との関連についてのお話しをします。
「早食いは太る」など、食事のスピードが速いと太るという言い習わしを耳にしたことがあると思います。速く食べると満腹感を生ずる前に食べ過ぎてしまうからだと言われますが皆様はそれを信じますか?もし早食いが本当に肥満の原因であるとしたら、ゆっくりと食べる習慣を身につけることが、長い目で見た肥満対策の一つになると考えられます。

どんなデータを用いたか
2002年に自治体職員の方々からアンケートで答えて頂いた、食事の速さ、食物摂取頻度、その時点の体格と20歳時の体重を用いて、「早食いは肥満になりやすいか?」という問に答える検討をしましたのでその結果をお知らせします。全ての問にお答え頂いた中で、体重に影響する重い病気にかかったことがない男性3,737人と女性1,005人のデータを分析しました。「食事の速さ」は「かなり速い」、「やや速い」、「ふつう」、「やや遅い」、「かなり遅い」の中から選ばれた答えです。肥満の指標には体重(kg)を身長(m)の二乗で割った値、即ちBMI (Body Mass Index)を用いました。

速く食べる群ほど肥満度は大きく、20歳からの肥満度増加も著しい

図1

図1に食べる速さと現時点のBMIの値を示しました。

男女とも食べる速さが速くなるに伴い現時点のBMI、20歳時のBMIのいずれも大きくなっていました(表1)。
20歳から現在までのBMIの変化量をみると、これも食べる速さが速くなるにつれて大きくなっています。成人前に成長がほぼ止まる身長も男性では食べる速さの増加と共に大きくなっています。

摂取エネルギー量は男性では食事のスピードの速い群ほど大きくなっており、早食いは沢山食べるとの言い伝え(?)とも男では一致しています。
しかし、肥満は運動、タバコ、飲酒などによっても影響されるので、これらの生活習慣を持つ者の割合が食べる速さの各群の間で異なる場合、表1で見られた関連はこれらの生活習慣の群間差の影響が加わったものです。

そこで、食べる速さ以外の生活習慣による影響がどの群も同じであるような条件下で、食べる速さによって肥満度(BMI)がどの程度違うかという、速さ群別の影響力を多変量解析という統計手法を用いて求めました。その結果を図2に示します。
図2

これらは食べる速さが「かなり遅い」と答えた群でのBMIの増加分を基準とした場合、各速さ群でのBMIの増加分がどれくらいになるかを男女別に示したものです。
20歳から現在までのBMI変化量のいずれも、食べる速さが速くなるに従い大きくなる事が示されました。

なぜ、そうなのか
食事のスピードが速いほど、肥満が進むと言うことがデータから示された訳ですが、一体なぜでしょうか。
男性では食事のスピードが速いほど摂取エネルギーが多くなったと言う事実で説明可能のようです。なお、女性では人数が少ないためにこの傾向が捉えられなかったのかも知れません。

他にも理由が考えられます。ある研究グループが、50gのブドウ糖の入った液体(700ml)を5分間で飲んだ場合と、ゆっくりと時間をかけて3時間半で飲んだ場合の間で代謝がどのように異なるかという実験を行いました。
2つの群間で血中のブドウ糖の上がり方に違いはなかったのですが、インスリンというホルモンの感受性が一気に飲む群では低下することが示されました。速く食べることが習慣化するとこのインスリンの作用への効果の蓄積を介して肥満がもたらされることも考えられます。
このようなことから、肥満を防止するにはゆっくりと食べることが大切なようです。

子供時代に食べる速さは形成される?
今回の分析でもう一つ指摘できることがあります。それは、20歳時の体重や思春期後成長が止まる身長も食べる速さが速いと答えた群で大きかったことから、この群では既に子供時代から食べる速さが速かった可能性が指摘できます。即ち、若年期の食事習慣は中年期も変わらない(変わりにくい)ことが考えられるため、子供の時からの適切な食事習慣の獲得が大人になってからの健康維持には大切といえるようです。
ではどれくらいの速さが理想なのでしょうか?残念ながら今回の研究ではその問に答えることは出来ません。取り敢えずは、食物はよく噛み、一家団欒や仲間との交流の時間を持つなどゆっくりと食事をすることを心がけてください。(大塚礼)

表1

a:食べる速さのカテゴリー間で認められた各項目の差が統計学的に有意(意味がある)かどうかを一元配置分散分析という手法によって検定。
傾向性の検定は、食べる速くなるほど、注目している値がほぼ直線的に増えていくかどうかを統計学的に検定する方法。
記号の意味:
#:偶然そのような関係が認められる可能性が10%未満
*:5%未満、**:1%未満、***:0.1%未満
(%値が小さいほど、ここで認められた関係は単なる偶然によって生じたものではないであろうということを意味します。)
NS(not significantの略):統計学的に有意な差ではない


[書誌情報]
Otsuka R, Tamakoshi K, Yatsuya H, Murata C, Sekiya A, Wada K, Zhang HM, Matsushita K, Sugiura K, Takefuji S, OuYang P, Nagasawa N, Kondo T, Sasaki S, Toyoshima H.  Eating fast leads to obesity: findings based on self-administered questionnaires among middle-aged Japanese men and women.  J Epidemiol. 2006; 16(3): 117-24.

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塩分の好みと高血圧

今回は、高血圧に関係する要因が男性と女性で異なっていることについて紹介いたします。

男性は加齢とともに段階的に、女性は50歳以上になると高血圧になりやすい

男性の場合、加齢にともなって徐々に高血圧になりやすくなると推測されました。
すなわち図1(青色)に示すように、「40-44歳」の人と比べると、「45-49歳」の人は1.2倍、「50-54歳」では1.7倍、「55歳以上」では2.0倍、高血圧になりやすくなることがわかりました。

一方、女性の場合(赤色)、「45-49歳」の人は1.0倍と「40-44歳」の人と変わりませんが、「50-54歳」の人で1.7倍、「55歳以上」の人では2.4倍も高血圧になりやすいことがわかりました。この女性における年齢と高血圧との特徴的な関係には、女性ホルモンが影響していることが考えられます。つまり、閉経を迎え、女性ホルモンが減ると血圧が高くなりやすいことが示された結果であると考えられます。

「肥満」は男女いずれにおいても高血圧と関係

肥満度の判定には、Body mass index(BMI)を使いました。
この研究では、BMIが24.0(kg/m2)以上を肥満としたところ、図2に示すように、男性では非肥満者に比べて肥満者は2.2倍、女性では3.2倍高血圧になりやすく、女性の方が男性に比べて強い関係を示すことがわかりました。
(日本肥満学会は1999年より25.0kg/m2 以上を肥満とし、18.5以上~25.0未満は普通体重としていますが、本研究では1999年以前に用いられていた過体重の値を採用しています。) 

「飲酒習慣」は男性のみで高血圧と関係

男性において「飲酒習慣あり」の人は「なし」に比べて1.3倍、高血圧になりやすいことがわかりました。
女性では、飲酒習慣と高血圧との関係はみられませんでした。これは、女性の飲酒者では1回の飲酒量が1合未満と回答した人が多いためと考えます

50歳以上の女性でのみ、「濃い味つけの好み」は高血圧と関係する

年齢階級を40歳代と50歳以上の2つのグループに分け、味つけの好みと高血圧の関係についての男女別に比較を行いました。図4に示すように、50歳以上の女性においてのみ、「濃い味つけを好む」人は「薄い味つけを好む」の人と比べて2.6倍、高血圧になりやすいことがわかりました。
しかしながら、それ以外のグループでは「濃い味つけの好み」と高血圧との関係はみられませんでした。

このように男女で味つけの好みと高血圧との関係が異なる理由に、味覚を識別する能力が男女による違っている可能性も考えられます。
年齢による関係の違いを考慮すると、閉経後の女性では食塩の血圧上昇作用が強くなるのかもしれません。

性・年齢に応じた保健指導の工夫を
一般的に高血圧と関係するとされている生活習慣でも、性や年齢でその関係性が異なることがわかりました。
特に、女性の場合、50歳以上から高血圧との関係が強くなるので、性や年齢を考慮した保健指導が必要と思われます。(堀容子)


[書誌情報]
Hori Y, Toyoshima H, Kondo T, Tamakoshi K, Yatsuya H, Zhu S, Kawamura T, Toyama J, Okamoto N.  Gender and age differences in lifestyle factors related to hypertension in middle-aged civil service employees.  J Epidemiol. 2003; 13(1): 38-47.

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αリノレン酸の摂取によるインスリン抵抗性予防的効果

はじめに
食物には種々の栄養素が含まれていますが、摂取する栄養素の種類によって健康に与える影響が異なるかもしれないことがわかってきています。
さて、栄養素は、炭水化物、タンパク質、脂質に大きく分類されますが、さらに細かく分類することも可能です。
また、分類の仕方にもいろいろあります。例えば、脂質は植物由来と動物由来にさらに分類したり、化学的な構造によって分けたりすることも可能です。

図1には、脂質という栄養素をその化学構造によって分類した模式図を示しました。
今回とりあげるαリノレン酸は、n3系不飽和脂肪酸(注1)という構造をもった脂質の一つです(注2)。n3系不飽和脂肪酸にはαリノレン酸の他、魚油と呼ばれ、イワシやサンマなど脂ののった魚介類に多く含まれるえるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)があります。αリノレン酸は、大豆などの豆類や菜種、シソ、エゴマや亜麻仁(アマニ)からとれる植物油に多く含まれています。

(注1) ω(オメガ)3系不飽和脂肪酸、あるいは長鎖不飽和脂肪酸などと呼ばれることもあります。
(注2) 脂肪酸は、脂質を構成する主要成分です。



インスリン抵抗性とは
聞き慣れない言葉ですが、実はこのインスリン抵抗性が種々の生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)の基礎となる病態と考えられています。

インスリンは血糖値を一定に維持するためにすい臓で作られ、血液中に分泌されるホルモンで、血液によって運ばれて他の臓器に到達し、血糖値を下げるためのいろいろな働きを引き起こします。
肥満や内臓脂肪の蓄積が進むと、インスリンが血糖値を維持するために作用する肝臓や筋肉などが、インスリンに対して鈍感になることがわかっています。
その結果、すい臓はそれを補うためにたくさんのインスリンを分泌して、血糖値を正常範囲内に保とうとします。

しかし、結果として多量に分泌されたインスリンは、別の機構を通して血圧を上昇させたり、脂質異常症を引き起こしたりなど、望ましくない結果の原因にもなってしまうのです。
つまり、インスリン抵抗性を源にメタボリック症候群がもたらされ、やがて心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患の発症にも大きく関与します。

今回の研究の目的
メタボリック症候群や生活習慣病の発症の根本にあるインスリン抵抗性を改善することは予防医学の観点から重要な意義があり、公衆衛生学的にも健診制度の変革に繋がりました。
インスリン抵抗性の発現に肥満が大きな役割を果たすことは周知の通りですが、運動不足や喫煙、そして食事中の栄養素の状況によっても生じることがわかっています。例えば、脂身の多い肉類やバターなどに多く含まれる飽和脂肪酸という脂質の過剰摂取とインスリン抵抗性の関係が報告されています。しかし、植物油に多く含まれるαリノレン酸とインスリン抵抗性の関係はまだよくわかっていません。

そこで今回、平成14年に行った食事に関するアンケート結果から推定したαリノレン酸の摂取量と保存した血清から測定したインスリン抵抗性の関連について検討しました。

研究の方法と結果

平成14年のアンケート調査にご協力頂いた方々のうち、糖尿病や高血圧で治療を受けておらず、過去に心筋梗塞、脳卒中、がんの既往のない3,383名の方(男性2,652名、女性731名)を今回の解析の対象としました。
その方々全体の平均年齢は48歳、平均の肥満度(BMI)は23kg/m2でした。また、表1に示したように、インスリン抵抗性のある人はない人に比べ年齢が高く、肥満度も高値で、さらに身体活動ありの割合が低いという特徴があることもわかりました。

次にαリノレン酸の摂取量によって対象者を4つのグループに分けて、それぞれの群でインスリン抵抗性の割合を調べたところ、αリノレン酸の摂取量が多くなるにつれてインスリン抵抗性を持つ方々の割合が低くなっていることがわかりました(図2)。
この関連は、インスリン抵抗性に関係する年齢、性別、肥満度や身体活動の影響を調整しても維持されていました。





この研究からわかること
今回の研究結果より、αリノレン酸を多く摂取するとインスリン抵抗性が改善する可能性が示唆されます。
αリノレン酸が腸管に作用してインクレチンというインスリン抵抗性を改善する物質を分泌させるとか、αリノレン酸が肝臓や筋肉に作用して、それらの臓器における脂肪の酸化・分解を促進するようなメカニズムが考えられています。

さて、ではαリノレン酸は、たくさん摂取すれば、するほどいいのでしょうか。
第一に、今回の検討は2章「喫煙と糖尿病」で紹介した研究同様、横断研究であり、因果関係を特定したものでは必ずしもないことに注意をする必要があるでしょう。
また、仮にαリノレン酸の摂取量の多寡が原因となって、個人のインスリン抵抗性が影響されることがはっきりしたとしても、脂肪酸はエネルギー価が高く、摂り過ぎは有害となる可能性もあります。したがって、摂取する脂肪や油を動物性のものから植物性のものに置き換えることでインスリン抵抗性が改善すると解釈するのが妥当でしょう。

日本人の食生活は欧米化が進み、肉類やバターなどに多く含まれる動物性脂肪(飽和脂肪酸)の摂取量が増え、このことが心筋梗塞や動脈硬化の発症と関連しているという報告もあります。
本研究では、植物油に多く含まれるαリノレン酸がインスリン抵抗性の低下と関連しているという結果が得られましたが、これは従来の日本食、すなわち魚や野菜を中心とした食事が健康的であると言われる理由の一つを示しているのかもしれません。(村松崇)


[書誌情報]
Muramatsu T, Yatsuya H, Toyoshima H, Sasaki S, Li Y, Otsuka R, Wada K, Hotta Y, Mitsuhashi H, Matsushita K, Murohara T, Tamakoshi K.  Higher dietary intake of alpha-linolenic: acid is associated with lower insulin resistance in middle-aged Japanese.  Prev Med. 2010; 50(5-6): 272-6.

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2011年1月5日水曜日

食習慣と5年後のメタボリックシンドロームの発症

今回はメタボリックシンドロームの予防に有効と考えられる食習慣を紹介いたします。

欧米人を対象としたこれまでの研究では、脂質の摂取量が多いことや、果物・野菜の摂取量が少ないことが、メタボリックシンドロームの発症リスクを高めると報告されてきました。
しかし日本人での検討はほとんどなく、今回、ご協力者の方々からのデータに基づき、どんな食習慣をもっている方が、メタボリックシンドロームになりやすい(なりにくい)かを検討しました(大塚 礼他.日本栄養食糧学会誌.2009;62:123-9.)。


研究対象者


平成9(1997)年と平成14(2002)年に実施した生活習慣アンケートにご協力頂き、また両年とも「健診成績および健診時余剰血清の利用」にご賛同頂いた方を分析の対象としました。
解析に必要な質問項目に欠損がなく、メタボリックシンドロームの判定に必要な検査結果が両年ともそろっていた方は、男性2,140名、女性447名でした。この2,140名の男性のうち、平成9年に既にメタボリックシンドロームであった282名を除外した1,858名を解析対象者としました。
女性のうち、5年後すなわち平成14年にメタボリックシンドロームと判定された方は、わずか16名(3.4%)であったため、今回は、男性に限定した解析を実施しました。


メタボリックシンドロームの判定基準と5年間の発症リスク

表1に示したように、肥満に加え、脂質代謝異常、血圧高値、空腹時高血糖の3項目のうち2項目以上に該当する人をメタボリックシンドロームと判定しました。

(表1:メタボリックシンドロームの判定基準)
平成9年にはメタボリックシンドロームでなかった1,858名中、5年後の平成14年には、126名(6.8%)がメタボリックシンドロームと判定されました。
ところで、リスクとは危険性とか危険率という意味ですが、ここでは「ある期間に疾病にかかった人々の人数」を「その期間中に追跡調査された人々の人数」で割った値と定義しています。


メタボリックシンドローム発症リスクとの関連を検討した食習慣

表2に示した食習慣と、5年間のメタボリックシンドローム発症リスクとの関連を検討しました。
なお、年齢、喫煙や飲酒の習慣、身体活動量など個人の食習慣にも、メタボリックシンドロームの発症にも関連する可能性がある要因の影響は、統計学的に考慮して調べました。

(表2:食習慣の内容と回答肢)

メタボリックシンドローム発症リスクに関連した食習慣

5年後のメタボリックシンドローム発症リスクに関連があった食習慣は、牛乳、塩の味付け、油っこい味の好み、満腹まで食べるかどうかの4項目でした。
ある食習慣の人が、基準となる食習慣に比べて何倍メタボリックシンドロームになりやすかったかをオッズ比という指標を用いて、図示しました。
(図1:牛乳の摂取頻度とメタボリックシンドローム発症リスク)
その結果、牛乳を「ほぼ毎日」摂取する人に比べ、「週1-2日」摂取する人では1.78倍、「週1日も飲まない」人では1.72倍、メタボリックシンドローム発症リスクが高いという結果でした(図1)。

(図2:塩・しょうゆ・みそなどの味付けの好みとメタボリックシンドローム発症リスク)
また、塩・しょうゆ・みそなどの味付けが「濃い味が好き」と答えた人に比べ、「濃い味が好きだが控える」と答えた人では0.60倍、発症リスクが低いという結果でした(図2)。

(図3:油っこい料理の好みとメタボリックシンドローム発症リスク)
さらに、「油っこいものが好き」と答えた人に比べ、「あっさりめなものが好き」と答えた人では0.52倍、「どちらともいえない」と答えた人では0.56倍、発症リスクが低いという結果でした(図3)。

(図4:「食事は腹いっぱい食べるか」とメタボリックシンドローム発症リスク)

食事を「腹いっぱい食べるほう」と答えた人に比べ、「腹八分目に控えるほう」と答えた人では0.48倍、「どちらともいえない」と答えた人では0.48倍、発症リスクが低いという結果でした(図4)。


まとめ

今回の研究から、牛乳の摂取頻度が高いこと、濃い味を控えること、あっさりしたものが好きなこと、食事を腹八分目に控えることが、それぞれそうでない場合に比べ5年間のメタボリックシンドローム発症リスクの低下につながる可能性が示されました。
今回は男性での検討結果ですが、女性は男性よりも「あっさりしたものが好き」と答えた人が多いなど、食習慣には男女差が認められますので、女性での検討ができなかった点は残念です。

また牛乳に関して、その主要な栄養素であるカルシウムが血圧や代謝に好影響を与えることがわかっています。
しかし、牛乳を毎日摂取する方が、他に何らかの健康的な生活習慣や全般的に良好な健康状態を有していて、そのことがメタボリックシンドローム発症に予防的に作用した可能性は完全には否定できません。さらに、今回は低脂肪かどうかなど牛乳に含まれる脂肪成分については検討できていないことも今後の検討課題かもしれません。

さて、メタボリックシンドロームを予防する食習慣の研究は、日本人ではまだまだ少なく、今後の研究が待たれるところですが、牛乳を毎日摂取することや、濃い味が好きでも控えること、食事を満腹まで食べずに腹八分目に控えることなど、食事の際のちょっとした配慮により、メタボリックシンドローム予防の効果が期待できそうです。

早速今日から、食事の際のちょっとした心がけを始めてみませんか。



[書誌情報]
参考書誌
大塚 礼, 玉腰 浩司, 下方 浩史, 豊嶋 英明, 八谷 寛「職域中高年男性におけるメタボリックシンドローム発症に関連する食習慣の検討」『日本栄養食糧学会誌』 2009;62:123-9



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コーヒー摂取による生活習慣病予防効果のメカニズム -アディポサイトカインを介した影響-

はじめに

コーヒーを飲んでほっと一息、そんな光景をよく目にします。世界で最も多く消費される飲料の一つです。日本はアジアの中ではコーヒー摂取量の多い国であり、2010年の調査によると成人1人あたり平均約11杯のコーヒーを1週間に消費しています。このように身近な飲み物であるコーヒーの健康に与える影響の調査は重要であり、これまで比較的多くの研究が行われてきました。

 コーヒーは胃腸に刺激を与えるため消化器疾患の人では控えるように指導されていたり、カフェインによる心悸亢進が心臓病の人で良くないのではと疑われるなど健康に対する負の影響と言った側面が注目された時期もありました。しかし最近の健康な人を対象とした研究では、コーヒーを多く飲む人では、あまり飲まない人に比べ、例えば血液検査で中性脂肪の値が低く、善玉(HDL)コレステロールが高いことが報告されるなど、コーヒーの生活習慣病予防効果に注目が集まっています。また、1日に4杯以上のコーヒーを飲む人の糖尿病発症率はそれ以外の人より有意に少なかったことが、類似の研究結果を集めて再解析するメタアナリシスと言う研究によっても示されています。

では、コーヒーはどのように生活習慣病を予防するのでしょうか。そのメカニズムとして、コーヒーによる体重減少作用、体内での炎症反応抑制効果、抗酸化作用、肝機能改善効果、インスリンの分泌・作用改善効果、など様々なものが提唱されていますが、それぞれ反対意見もあり、まだ十分解明されていません。


アディポサイトカインとは

ところで、従来余剰なエネルギーを脂(あぶら)にして貯蔵するだけと考えられていた脂肪組織が、生活習慣病の病態に密接に関係しているとして注目されています。つまり、脂肪組織からは、私たちの体の働きを調節する役割をもつホルモンのような働きをする様々な物質(アディポサイトカイン)が分泌されていることが分かってきたためです(「喫煙は血中アディポネクチンを低下させる」参照)。現在までに、数多くのアディポサイトカインが発見されてきており、その働きから「善玉」と「悪玉」のアディポサイトカインに分類されるようになってきています。

その中でも、アディポネクチンは、最も重要な善玉アディポサイトカインの一つで、脂肪組織で合成されるのに、その血中濃度は脂肪組織の多い肥満者で逆に低値を示し、減量すると増えることが特徴です。「血中アディポネクチンの濃度と2型糖尿病発症率の関連」で、その値が低い人では、将来の糖尿病発症リスクが高くなることを紹介いたしました。また、血中の低アディポネクチンは脂質異常症や心筋梗塞の発症との関連も指摘されています。アディポネクチンがインスリン感受性を高めて血糖値の上昇を防いだり、脂肪肝を防いだりすることが関係すると考えられています。

 レプチンもよく研究されているアディポサイトカインです。脳の視床下部にある満腹中枢に作用して食欲を抑え、また、交感神経を活性化させてエネルギー消費を促すことで肥満を抑制する働きがあると考えられています。これらの効果から、アディポネクチンと同様「善玉」アディポサイトカインと考えられますが、肥満に伴って増加したレプチンは炎症を促進したり、血圧を上昇させたりと言う「悪玉」の側面があることが知られてきています。

 

今回の研究の目的

そこで今回、コーヒーによる生活習慣病予防効果が、アディポネクチンやレプチンを介したものかもしれないと考え、検討を行いました。具体的には下図1に示したように、コーヒーと生活習慣病に関係する健診結果の間の関連(図中Cと示されている)が、実際にはAやBのようにアディポサイトカインを経由した経路になっているかどうかを統計学的に検討しました。

 

図1.

 

 

研究の方法

解析の対象者は、平成14年のアンケート調査にご協力いただいた方の中で、解析に必要な生活習慣の申告とアディポネクチンの測定結果があり、過去に心筋梗塞、脳卒中、がんの既往がなく、高血圧、糖尿病、脂質異常症に対する内服治療も行っていない3,317名(男性:2,554名、女性:763名)としました。対象者を1日に飲むコーヒーの摂取量で、1杯未満、1杯、2-3杯、4杯以上の4つのグループに分けて解析を実施しました。

 

結果

表1に示したように、1日に飲むコーヒーの量が多いほど、平均年齢が低く、喫煙する人の割合や総エネルギー摂取量の平均値が高く、またコーヒーに砂糖を入れて飲む人の割合が低くなる傾向が認められました。


 


そこでコーヒー摂取量の違いによるこれらの要因の差を統計学的になくして、コーヒー摂取と健診結果やアディポサイトカインの本来の関係を調べました(表2)。

 その結果、アディポネクチンの血中濃度はコーヒー摂取量に伴い増加、レプチンは逆に減少しました。また、全身の炎症の指標である高感度CRP、中性脂肪、肝機能マーカー(AST、ALT、γ-GTP)はコーヒー摂取が増えるにつれ、それぞれ減少しました。

 

次に、コーヒーと健診結果との関連が、アディポサイトカインによってどれくらい説明できるのかを調べました。
コーヒー摂取の増加によって高感度CRPは減少する傾向にありましたが、その効果の19.7%はアディポネクチン、23.4%はレプチン(両者の合計43.1%)を介していることがわかりました(図2)。したがって、コーヒー摂取による炎症反応の抑制効果の約半分はコーヒーがアディポサイトカインに影響することを介していると考えられました。一方、それらを介さない効果がまだ56.9(=100-43.1)%存在していることもわかりました。




また、コーヒーによる中性脂肪減少効果の61.5%はアディポサイトカインを介しての影響と考えられました(表3)。肝機能マーカー(AST,ALT,γ-GTP)についても約19-33%はアディポサイトカインを介した影響と考えられます。

まとめ

コーヒー摂取はアディポネクチンを増加、またレプチンを減少させ、それらを介して中性脂肪と炎症反応の減少、肝機能マーカーの減少をもたらしている可能性を示しました。ただし、因果関係を証明するためにはさらなる研究が必要です。コーヒー摂取量を増やすことによって、健診結果が改善するかどうかも、今回の検討結果から結論することはでません。
 したがって、無理して飲む量を増やす必要はないと現時点では考えていますが、お仕事などでお忙しい中、コーヒーなどを飲みながらほっと一息つく時間をとることは、身体にも心にも良い効果が期待できるでしょう。 





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(5)コーヒー摂取による生活習慣病予防効果のメカニズム