2011年1月5日水曜日

5年間のストレス自覚、食習慣が肥満度の増加量に及ぼす影響

2008年度からは特定健診が始まり、いわゆるメタボの元凶とされる内臓への脂肪沈着を防ぐことが健康対策の目玉になりました。腹囲の基準の妥当性については異見もありますが、生活習慣病の予防には過剰な脂肪沈着は是非避けたいものです。

「ストレスと生活習慣」「ストレスと不眠」「仕事ストレスの多寡とストレスの自覚の関係」の項で、データの解析結果から、自覚される精神的ストレスの多寡は、日頃の睡眠の質、仕事の要求度や裁量度、残業の量、相談相手の有無、腹一杯食べるなどの日常生活習慣と関連していることを示しました。
精神的ストレスと肥満との関係についてはかなり古くからヒトや動物実験で調べられましたが、結果は一様ではなく、男女間、動物の種類、ストレスの種類などによって異なります。
しかし近年、女性ではストレス誘発性の食行動により肥満を生ずるとの説が有力です。ラットの実験ではストレス時の体重の増加は、ストレスに曝された時にカロリー効率が高い砂糖や油脂に富んだ食品を好んで食べることが関連していました。そこで、肥満度にストレスと食習慣が与える影響を解析してみました。ただし、人数の関係で男性のみです。

「ストレスが多いか少ないか」と「満腹まで食べるかどうか」で対象者を4つのグループに分類
1997年と2002年共に健診に参加された2,814名(うち男性2,324名)の協力者の方々から、がんに罹られた方と1997年までに心臓病、脳卒中、及び高血圧、脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症に罹ったか、その薬を飲んでいた方を除外した1,080名の男性職員を解析の対象としました。これは特別な介入指導が肥満度、ストレス、食事やその他の生活習慣に及ぼす人為的な影響を除外して関連性を見るためです。

分析するに当り、各個人について1997年と2002年の2回のアンケート回答から、各生活習慣の程度を2群に分けました。

先ず、自覚ストレスの程度は各年4段階の回答(かなり多い、やや多い、普通、少ない)の前者二つを「多い」、後者二つを「少ない」に括り、両年とも「少ない」と答えたヒトは「ストレス少群」、単年又は両年とも「多い」と答えたヒトは「ストレス多群」として2分しました。

食習慣は同様な分類法で八分目に控え続けた「八分目群」と、それ以外の「満腹群」に分けました。

先ず、ストレスの自覚度が直接食習慣と関連しているか否かを知るために、「ストレス多群」と「ストレス少群」の間で、「満腹群」が占める人数割合を比較したところ、「ストレス多群」は65.6%(438名/668名)と「ストレス少群」の61.9%(255名/412名)に比べてやや高率でしたが、統計学的には意味のある差ではありませんでした。
つまり、この集団ではストレスと食習慣には関連性が認められませんでした。

「ストレス多群」中の「満腹群」は同「八分目群」に比べて大きく肥満度が増加
次に、ストレスと食習慣の組み合わせによって肥満度の増加が異なるかを見てみました。普通、「満腹群」は「八分目群」に比べて5年の間により太ると予想されます。そこで、「満腹群」と「八分目群」の間に生ずる5年間のBMI増加分の違いが、ストレス自覚の多少によって異なるのかを検討しました。
全員を先ず「ストレス多群」と「ストレス少群」に分け、次に、各群ごとに「満腹群」と「八分目群」の間で5年間でのBMIの変化量を比較しました。

その結果、食習慣の違いから来るBMIの増加分の違いの大きさは、ストレスの多少によって影響されるという解析結果が得られました。なお、BMIが減少した群はありませんでした。
具体的には図1に示しましたように、「ストレス少群」中の「満腹群」と「八分目群」の間では5年間のBMI増加分に統計学的に明らかな差はありませんでした。
しかし「ストレス多群」中の「満腹群」は同「八分目群」に比べて明らかに大きなBMI増加を示しました。つまり満腹まで食べるか八分目に控えるかによってBMI増加分に差が生じたのは自覚ストレスが多い場合だけであり、少ない場合には差は生じませんでした。

なぜでしょうか?
もし「ストレス多群」での「満腹群」と「八分目群」の摂取エネルギー量の差が、「ストレス少群」でのその差より多かったのであれば、この結果の説明がつきます。

そこで、2002年の食事調査で得られた各個人のエネルギー摂取量から、「八分目群」と「満腹群」間の平均値の差を「ストレス多群」と「同少群」について求めました。
その結果、図2に示しましたように、この差はいずれの場合も約120kcalであり、BMI 増加分の違いはエネルギー摂取量の違いによっては説明され難い結果でした。
以上の結果は、飲酒、喫煙、運動習慣の群間での違いを同時に考慮しても変わりませんでした。


どうしてなのか?
冒頭に述べたようにラットの実験では、ストレスを与えた場合、カロリー効率が高い砂糖や脂質に富んだ食物の摂取割合が増えたことが報告されています。
しかし、具体値を示しませんでしたが、この集団では、これを支持する食物摂取上の所見は認められませんでしたので、同じ機序が作用したといえません。ただ、2002年単年度の食事調査データでは摂取上の違いが把握できなかったのかもしれません。

肥満予防にはストレス自覚の有無によらず普段から腹八分を心がけることが大切
さて、今回得られた結果からは、男性ではストレス自覚が多い場合にのみ、満腹まで食べる習慣は八分目に控える習慣に比べて、明らかな体重増加をもたらします。
逆に、八分目に控える習慣は満腹まで食べる習慣に比べ、ストレス自覚が多い場合に体重増加分を減らします。しかし、痩せさせるわけではありません。

肥満予防にはストレス自覚の有無に関わらず、普段から腹八分を心がけることが大切です。
近年、甘いものや脂肪の多い食べものによるストレス緩和の脳における仕組みが調べられています。全ての薬は取りすぎると副作用が生じます。動物実験の結果は、ストレス自覚の多い場合にその緩和作用を求めて甘いものや脂肪分という薬を取り過ぎると肥満という副作用がもたらされることを示しているようです。(豊嶋英明)


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