2011年1月5日水曜日

ストレスと生活習慣

今回は、ストレス自覚と生活習慣の関連についての予備的な分析結果をお知らせします。

平成9年と平成14年の両年に、ストレスの自覚と生活習慣に関する調査をしました。
平成9年は男性8,582名、女性1,215名、平成14年はそれぞれ5,177名、1,471名を対象として分析しました。
ストレス自覚は「日ごろストレスが多いと思われますか」との問に「かなり多い」、「やや多い」、「ふつう」、「少ない」の4つの選択肢から選んで頂いた回答です。

ストレス自覚の程度と関連した生活習慣
両年ともにストレス自覚の多いこととの間に、偶然と見なすことが出来ない関連を示した項目は、睡眠時間の短いこと、腹一杯食べること(男性のみ)、朝食を抜くこと、生きがいや張りがないかはっきりと自覚しないこと、親身になってくれる悩みの相談相手がいないこと、余暇をごろごろして過ごすこと、5時間以上(平成9年については2時間以上)の残業日があることでした。
このうちの一部について、男女各々の平成14年の結果を帯グラフで示しました。

(図1)生活習慣別のストレス自覚の分布

どちらか一方の年のみで、関連を示した項目は、深夜勤務があること、歩いて通勤すること、および脂っこい料理を好むことでした。
これらに対し、喫煙状況、喫煙本数、塩味の好み、通勤時間は両年度とも、ストレス自覚の程度とは関連していませんでした。

関連性をどう読むか
両年とも関連のあった項目は、片方の年のみ関連性があった項目や両年とも関連のなかった項目に比べ、より普遍的にストレスと関連している可能性があります。
それらの項目のうち、残業はストレス自覚の多いことによって増えるとは考えにくく、ストレスを生ずる原因と考えられます。
他方、腹一杯食べることや朝食を抜くことはストレスによって生じた習慣の可能性があります。また、親身に相談にのってくれる相手がいることや余暇にスポーツ等をすることではストレス自覚が少ないことと関連したことは、これらの要因がストレスに対する緩和作用をもつと解釈できます。睡眠時間の短いことはストレスの結果生じた可能性があると同時に、引いてはそれがストレスを生むといった悪循環を形成している可能性もあります。
しかし、一般的に観察研究のみから因果関係の真実に迫ることには限界があります。

動物での実験
このような場合、動物を用いた実験結果がこれらの観察研究結果を理解する上で重要な役割を持っています。
非特異的な慢性ストレスが肥満を生ずるという動物実験の論文が、1976年に『サイエンス』という世界で最も権威ある科学誌の一つに載りました。

ネズミを甘いミルクを自由に飲むことが出来る環境下において、一日に6回一定の時間間隔で尻尾を10分ないし15分間僅かに強くつまむというストレスに曝すグループとストレスを与えないグループに分けて数日間観察したところ、尻尾をつままれたグループはミルクの摂取量が著しく増え、実験終了後には対照群に比べて明らかに体重が増えました。
動物において慢性のストレスが過食を介して肥満を生ずることを説明する実験結果であろうと推論
しています。

実験はこのように因果関係について明解な答えを与えてくれますが、それがヒトにも当てはまるか否かまでは示してくれません。
ヒトの観察研究と動物実験の両方が真実の解明には必要です。

私達ではどうなのか
男性のうち満腹まで食べる群は腹八分目まで食べる群に比べて日ごろのストレス自覚者割合が高かったことは、動物実験結果と考え合わせると、ストレスの多い人たちは過食傾向に陥ることを表わしているのかも知れません。
しかし、「肥満度にも差があるのだろうか」、「なぜ男性だけで認められたのか」といった疑問も生じます。今後はこのような視点から分析を進める必要があるでしょう。
肥満は現代の大きな健康問題でもあり、取り敢えずは、過食を控えるか、過食以外のストレス解消法を心がけましょう。(豊嶋英明)


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